たぬき
著者:いせひでこ
装幀:いせひでこ+寺本敏子/秋耕社
発行:平凡社
発行日:2021/11/17
判型:A4横変型判(196×272mm)
頁数:44p
製版・印刷:プロセス4C、カバーはマットニス、表紙はマットPP加工、特色1C(特茶/特グレー)
用紙:ニューVマット、ヴァンヌーボV-FS ホワイト、NTラシャ うすクリーム、パールコートN、ダイヤバルキー
製本:糸かがり上製本
今回は、いせひでこさん著の絵本「たぬき」をご紹介いたします。
〈お日さん、あったかいねえ〉
〈かあちゃんみたいだねえ〉2011年の春、絵描きの家の庭にあらわれた たぬきの一家。
産む、育てる、いのちの絆の物語は、やがて別れと旅立ちへ。
小さなからだ全身で「生きる」たぬきたちと、絵描きとの
まぼろしのようなおはなし。著者のことば
「ヒトも動物も木々も草花も、生きるために生まれる。
あるがままの「いのち」を描きたいという思いが、心のそこから湧き起こっていた。
そしてこの本の表紙の絵が生まれた。「生きる」方向を見つめる目、目、目。
そして、現実と幻術との境目がわからないまま、「たぬ記」に綴られた日々を
絵で再現していったら、たぬきが山盛りの絵本が描きあがった。」
いせひでこ(本書、あとがきより)この絵本『たぬき』はいまから10年前、東日本大震災の年の春に、画家・絵本作家のいせひでこさんの家の庭に現われた、たぬきの一家のお話です。
3月11日、思ってもみない大地震と、それにともなう原子力発電所の事故がおこりました。いせさんはその日から、地震の記録、原発事故の報道などを小さなノートに記していきました。4月、近所の公園や道路で、たぬきらしき姿を目にするようになりました。
5月末、朝、デッキの上のスリッパや靴が動いていました。6月の夜、デッキの人感センサーの明かりに、もそもそ動くたぬきの子と親が浮かび上がりました。6月以降、「地震日記」は〈たぬ記〉と手製ラベルを貼った観察日記になっていきました。
〈たぬ記〉には、鉛筆やボールペンのやわらかな描線で、たぬきたちの行動、成長、変化という、見たことのない日常が描かれていきました。頻発する地震のなかで育っていく子たぬきに、「生きて」「生き抜いて」という祈りにも似た思いが重なっているように思えます。
小さな毛衣(けごろも)だった赤ん坊が、成長するにつれ個性が出てくること、ふわふわ、もふもふとした毛並み、庭の小さな森の緑の深さ、草や花や鳥たち、家族のゆくすえなど、ページをめくっていくたびに、思ってもみない展開になることと思います。
東日本大震災の年の、春から夏にかけての、まぼろしのようなお話を、10年をへて、お届けできることになりました。ご覧いただけますと幸いです。
2021年11月 平凡社編集部
今回印刷させていただくにあたり、水彩画のイラストをインキの顔料で印刷する際の手がかりとして、ディレクターは絵本の文章を熟読し、文章の意図を汲み取りながら色彩の設計を行いました。
いせさんの柔らかくて、心が落ち着く静かな水彩画の色彩やにじみを再現し、グラデーションを残すためにガウスや消しゴムツールも駆使した、製版の職人技も絵本を眺めながらご覧いただきたいです。
2022年5月29日(日)まで、TEAL GREEN in Seed Village にて『たぬき』いせひでこ 絵本原画展が開催中です。いせさんの「たぬき」の世界をご堪能いただける機会ですので、ぜひお運びください。
4月27日(水)〜5月29日(日)『たぬき』いせひでこ 絵本原画展
いせひでこ/作 平凡社 定価1760円 2011年の春、絵描きの家の庭に現れたたぬきの一家。 3月11日の震災の日から始まった「地震日記」は、やがて〈たぬ記〉という観察日記になりました。産んで育てて、弔って、旅立つ…小さなからだ全身で「生きる」たぬきたちと絵描きとの物語です。 いせひでこさんをお迎えして、〈たぬ記〉のお話や絵本ができるまでのお話をお聞きしたいと思います。 …