久保村厚 組写真篇 栖(すみか)
発行日:2024/4/25
著者:久保村厚
編集構成・ブックデザイン:滝川淳
制作進行:三浦清美
統括プリンティングディレクション:髙栁昇
製版:山口雅彦
印刷:高橋満弘
判型:A4横変型判
頁数:96p
製版・印刷:プロセス4C/UVオフセット
用紙:<表紙>OKトップコート+<見返し>ビオトープGA-FS コットンホワイト<本文>モンテアルバ
製本:ハードカバー、天綴じ
▲見返しには、天綴じならではの奥行きを感じさせる縦長の写真が。
写真家、久保村厚氏の2冊目となる本写真集は二本立ての両A面仕様。表紙からは氏が住む長野県伊那市で撮った写真を組写真形式にまとめた『栖』が、裏表紙からは氏の1冊目の写真集『隣の田圃』の続編とも言える備忘録、『水番記 隣の田圃』が収められています。
本書を氏は「組写真篇」と銘打っており、写真集の中で、組写真の面白さに気づいた瞬間の出来事についてこう語っています。
或る日、山の谷川で岩に弾ける水を撮った。撮った儘で暫く忘れて居たが、半年位経った頃、松本の街中で壁際に夕陽に照らされて、干涸びて見える水道の蛇口が有った。突然、忘れて居たはじける水の写真が現れ、駆け回り始めた。山の中の水が水道管に入って此の蛇口に現れるのは何時だろうと考えた瞬間に、二枚の写真が作品になった。
ー写真集序文「栖とは」より
テーマに沿って組まれた写真群は、同じ時間帯・場所で撮ったであろうものから、なぜこの写真同士が組まれているのだろうと興味をかき立てるものまで、実にさまざま。ページをめくるごとに、著者の意図を探ることに夢中にさせられます。
モノクロ写真とカラー写真を並べることで、それぞれの写真形式の良さを改めて味わうことができるのも本書の魅力の一つです。氏の住む、寂れつつも人々の生活がしっかりと息づく伊那市のありふれた日常の一つ一つが写真家の手によって結びつけられ、複雑に展開していきます。
▲『道ばた』
▲『こわれもの フラジャイル』
写真によっては強くノイズがかかり、被写体の表面の色ががジリジリと荒れていますが、そのノイズが作品をより個性的なものにしています。久保村氏はパソコン上での写真処理をポジティブに捉えており、アナログ時代の暗室処理がデジタル化したものと考え、デジタル写真ならではの調子づくりに試行錯誤しているそう。
写真表現がアナログ(フィルム)からデジタルに大きく変わって、デジカメやプリンターの劇的な進歩で誰でも美しい写真が簡単に撮れるようになった。現像やプリントが暗室処理では手間や時間を掛けなくては思った表現が出来なくて苦労したが、デジタルではそれがひどく楽に短時間で行える様になって歓迎して居る。然し、多くの写真が、カメラ任せ・プリンター任せに頼って皆同じような個性の乏しい写真に見えて仕方ない。
デジカメを使って居るが、フィルムがCCDに代わっただけのものと考えて、パソコン上でも暗室処理と同様に考えて、パソコン上で格闘して調子を作って居る。画像を荒れ気味にして質感を強めて存在感が伝わればいいかなと考えた結果としての調子である。此の所作は決して楽ではない。毎回パソコンの前で大汗を掻いている。クライアントは俺自身。だからこそ此の大汗を楽しんで居る。
調子作りは理屈じゃあない。楽しむ事だ。
ー「栖」すみかが生まれる前夜 より
▲『いつもの道』
組写真の意図をたどることを楽しむとともに、あなたの”栖(すみか)”についても思考を委ねてみていただきたい、個性的な一冊です。
久保村厚 組写真篇 「栖」すみか | ご購入はこちら
-A5横変型判 96ページ | 糸かがり上製本・天綴じ両A面仕様
-頁数:96p