電車の窓に映った自分が死んだ父に見えた日、スキンケアはじめました。
著:伊藤聡
デザイン:坂川朱音(朱猫堂)
イラスト:高橋将貴
発行:平凡社
発行日:2023/2/22
判型:B6縦変型判(188×126mm)
頁数:208p
製版・印刷:プロセス4C+マットニス、スミ
用紙:エアラス スーパーホワイト、サンドベージュF、オペラホワイトマックス
製本:あじろ綴じ並製本
今回ご紹介するのは、伊藤聡さん著『電車の窓に映った自分が死んだ父に見えた日、スキンケアはじめました。』です。
「男がスキンケアなんて恥ずかしい」そう思っていたアラフィフ会社員があれよあれよと美容沼にハマっていき…?男性美容とセルフケアをめぐる、笑いと感動の体験記。すすめ! おじさんスキンケアの道!
インパクト大なタイトルどおり、著者の伊藤さんはリモートワーク明けで久しぶりに電車で出勤した帰り、車窓に映った自分の顔が、亡くなったお父さんに見えたことに大きなショックを受けます。終始ユーモアあふれる伊藤さんの文章に声を出して笑ってしまいます。
「死んだ父がいる」
驚きで足元がぐらついた。電車の窓に映ったのは、二十年以上前に死んだ父であった。あっ、お父さん。父は霊界から、何か重要なメッセージを届けにきたのだろうか。『シックス・センス』(1999)のハーレイ・ジョエル・オスメント君のように、私にも死んだ人が見えるようになったか。アイシーデッドピープル。その能力いらない、と私は思った。
(中略)これは加齢と不摂生による変化なのだ。どうにかしなければ、と私は思った。このままでは父親と見分けがつかなくなってしまう。次に弟と会ったとき、「父がよみがえった」と思い込んだ弟が腰を抜かしたらどうしようか。それだけはどうしても避けたい。しかし、具体的にどうすればいいのかは見当がつかなかった。
ー本文11~12ページより抜粋
鏡に映る自分に「ひえぇ!」と悲鳴をあげるほど、加齢と不摂生ですっかり外見がくたびれてしまった伊藤さんは、一念発起してスキンケアを始めます。ドラッグストアのスキンケア売り場でおじさんが商品を買う際のいたたまれなさ、ヒアルロン酸、セラミド、オールインワンジェル、レチノールなどの謎の暗号と格闘しつつも、スキンケアのメンターとなる方々の助けもあり、ドラクエのごとくスキンケア道をクリアしていきます。
スキンケアアイテムをギターのエフェクターと比較した箇所は、男性ならではの視点で大変面白かったです。「有名人が使っている製品が売れる仕組み(田中みな実/田渕ひさ子愛用)」というように、美容女子のカリスマ・田中みな実とギター女子のカリスマ・田渕ひさ子(NUMBER GIRLのギタリスト)の名前が並列されることなどあったでしょうか。
美容沼にどっぷり浸かった伊藤さんは、スキンケアだけでなく、ベースメイクやフレグランスアイテムも取り入れ、白黒グレー、ベージュと無難なファッションから脱却してカラフルなカラーアイテムにも挑戦するようになり、スキンケア以外の見た目にも変化が起こりつつあります。
身なりに気をつかっている男性は、女性から見ても好感が持てますし、もし伊藤さんのように質問してくれたら、いくらでも相談に乗ってあげたくなります。また、デパコス売り場に初めて足を踏み入れた大昔のドキドキ感を、本書で伊藤さんが思い出させてくれました。
スキンケアに興味があるけど始めるのにちょっと勇気が必要なおじさま方はもちろん、最近自分のメンテナンスをさぼりがちな女子にも刺さる一冊です。ぜひご一読ください。