細江英公写真集 シモン 私風景
著者:細江英公
テキスト:白石かずこ 加藤郁乎
翻訳:Andreas Stuhlmann
デザイン:中島浩
発行:Akio Nagasawa Publishing
発行日:2012/2/19
判型:B4横変型判(259×366mm)
頁数:84p
製版・印刷:特色2C+超被膜ニス(スーパーブラック+特グレー、本文)
用紙:サテン金藤、アサヒクロースA-9
製本:糸かがり上製本、箔押し
今回は、2012年に刊行されました、細江英公さんの写真集「シモン 私風景」をご紹介いたします。
昭和46年(1971年)、細江さんは俳優の四谷シモン氏を被写体に、東京都大田区の石川台や浅草仲見世、観音様周辺、花やしき通り、隅田川に架かる吾妻橋など細江さん自身の記憶が残っていた辺りを徘徊しながら撮影を行いました。
この写真集のモデルである、四谷シモン氏は、現在では人形作家としてご存じの方のほうが多いかもしれませんが、1971年当時は唐十郎氏の状況劇場で女形の役者としてご活躍されていました。
細江さんは、女形の役者として出会った四谷氏の「名状しがたい色気に瞠目した」「私は、かつて上野公園や吾妻橋で出会った美女たちを思い浮かべたが、それは比べること自体が不当であり、四谷シモンの凛冽ともいうべき崇高な美は他に求めようがなかった」と語られています。
この写真集に収められた四谷氏の表情、肢体は、男女の境界を超越し、時にニンフォマニアックな妖艶さで魅了します。
細江さんが幼少期育った、この写真集の舞台となる東京の下町界隈は、「校舎の屋上から見下ろすと道を隔てた家の四畳半に赤い長襦袢が吊るされているのがちらりと見えたり、どこからともなく都々逸が聴こえてくるといった粋な街の中にあった」そうです。
そのような少年時代の私風景の中に、妖艶で凛冽な四谷氏を配し、自身のノスタルジーの増幅装置としているこの写真集は、戦後の仇っぽい空気感をご存じの方々は特に感傷的な気持ちを誘われるのではないでしょうか。
製版、印刷では、モノクロ写真の諧調表現を豊かにし暗部を締めるため、高濃度のスミのスーパーブラックとグレーで濃淡とコントラストを出しています。
また、グレーはやや黄色味のあるウォームグレーを使用することで、40年前の作品のレトロな雰囲気を強調。尚且つ、超被膜GW(グロスウェット)ニスをかけることで、印刷面の擦れを防止するとともに、光沢感を出しています。
細江さんはこの写真集について「私の青年時代の記憶の記録である」と仰っています。
写真集冒頭に白石かずこ氏による詩を二篇、巻末に加藤郁乎氏によるテキストを収録。40年の時を経て、写真集としてまとめられた本作。ぜひご覧ください。
シモン私風景 – 細江英公 | AKIO NAGASAWA
1933年山形県生まれ。52年東京写真短期大学(現東京工芸大学)入学、既存の美術制度のあり方を否定したデモクラート美術家協会を主催する瑛九と交流を深めるなどしながら、独自の芸術観を確立。56年初の個展「東京のアメリカ娘」を開催。59年には川田喜久治、東松照明、奈良原一高らとともに写真家のセルフ・エージェンシー”VIVO”を立ち上げ、私的で芸術的な表現活動を展開、日本の写真界を牽引。60年には…