コロナ・ブックス 詩人 吉原幸子 愛について
編集:コロナ・ブックス編集部
発行:平凡社
発行日:2023/6/23
判型:B5縦変型判(217×166mm)
頁数:128p
製版・印刷:プロセス4C、特色1C(特銀)、スミ、カバーはグロスニス
用紙:マルガリーライトFSC-MX、OKミューズガリバーグロスCoC ハイホワイト、黒気包紙U
製本:あじろ綴じ並製本
どうも、東京印書館の大関です!
今回は平凡社の「コロナ・ブックス 詩人吉原幸子 愛について」の紹介です。
コロナ・ブックスは、月刊『太陽』の特集から生まれた1994年創刊のハンディなビジュアル・ブックです。日本の伝統文化や世界の旅と暮らし、そしてアート&デザインをはじめインテリア・うつわ・雑貨まで、《もっと知りたい》《もっと見たい》というあなたの好奇心を満たします。(平凡社HPより)
とありますが、元々「ことば」が好きな私の好奇心は今しっかりと満たされております。
吉原幸子氏がどのようにして詩人になったのか。幼少期から晩年までの表現者としての生涯を、多くの写真と作品群でたどります。幼年から少女期は「優等生」であったようで、両親や先生、友達の前で「いい子」を演ずる趣味があったとか(本人いわく憎たらしい優等生)。
小学生の終わりに疎開先の山形で終戦を経験し、都会しか知らなかった氏にとって田舎の日々は新鮮で、思春期のはじまりと重なることですべてが初々しく息づいているように見えたようで、美をかんがえ人生を愛しはじめるきっかけとなります。
女学生時代(1946年)に、海軍帰りの髪の長い青年教師福田先生(後の読売文学賞詩人・那珂太郎氏)と出会い、そのいかにも詩人らしい講義をするという福田先生の宿題(ほとんどが詩作)で初めて書いた詩を評価され、のちに「君の才能をもって何も書かないでいるのは、ほとんど罪悪といえます」と言わしめました。
大学時代(1952年)からは、演劇研究会で演劇に没頭し卒業後には劇団四季に女優として迎えられますが、その年の秋に退団。その後、結婚(1958年)して出産(1961年)するも翌年に離婚。
このあたりの時期はメモをまとめたり発表したりする余裕はなかったようですが、詩を書き継いでおり、こののち「歴程」(現代詩の同人雑誌)の同人となり詩人としての歩を踏み出します。 32歳(1964年)の五月に第一詩集「幼年連祷(ようねんれんとう)」を自費出版。
自費出版とはいえ、非常に評判がよく思潮社の目にとまるところとなり、十二月に第二詩集「夏の墓」の発売と同時に「幼年連祷」も思潮社名義で再発売されています。
本書にてすぐれた詩集に贈られる賞「第四回室生犀星(むろうさいせい)詩人賞」を受賞。
その後「オンディーヌ/1972年」「昼顔/1973年」「魚たち・犬たち・少女たち/1975年」「夢 あるひは…/1976年」「夜間飛行/1978年」「花のもとにて 春/1983年」「ブラックバードを見た日/1986年」「樹たち・猫たち・こどもたち/1986年」「発光/1995年」などの詩集を刊行しています。
また、1983年に季刊詩誌「現代誌ラ・メール」を創刊(~1993年終刊)し、多くの女性詩人を輩出してきました。
それ以外にもエッセー、童話、舞台の脚本を手がけるなど多方面で活躍しています。 詩について「机の前に座っている間は生きる時間が減らされてるんじゃないかって言った人がいたんですけれども、私はそうじゃない、八十まで生きてて二十書くというんじゃなく百二十ぐらい生きてて、そうすると<あ、しまった!>と思って百のところまで戻ってくる、その戻りの方が詩になる部分じゃないかと思うんです」と。
そして、書くために生きたことも、生きるために書いたこともない。生きてることの副産物として書くんだ、と語っています。
吉原氏を知る人たちは
「彼女の詩は硬質でカミソリのように鋭いのだが、彼女自身もその通りの女性で、とても知的で凛としている」
「この世に生まれたことを、ときに呪い、ときに感謝しながら、ずっと自分や世界を見つめ続けた。彼女ほど純粋で、ひたむきに世界に向き合った人を、他に知らない」
「物がそして人がただそこに在り、そこに生きているだけでいい──烈しい情念の劇の底にひそむそういう単純な感動を吉原さんは失わずに生きている」
と評しており、アルコールが入った際のエピソードなどはどれもとてもチャーミングでひたすらに魅力あふれる人です。
印刷方面も少々。
本のカバーをめくると真っ黒な紙が現れます。それは表紙なわけですが、どこまでも真っ黒なその紙に銀の文字。
実際に原稿に書かれた文字そのままを抜き出して銀色のインクで印刷しております。
本というものは、紙とインクの組み合わせによりさまざまな表現ができるものなのです。
風合いや手触り、質感というものはやはり紙ならではであり、紙の素晴らしいところと言えるでしょう。
光の角度によって文字の輝きも変化します。
改めてそこに書かれた「街」という詩をじっくりと読んでみますと、なぜか心に刺さるのでした。
ぜひ、詩人吉原幸子のことばを感じてみてください。
(文・営業部 大関)
特別協力:吉原純
図版・資料協力(順不同・敬称略):思潮社、朝日新聞社、演劇集団円、新建築社、谷川俊太郎事務所、中央公論新社、白泉社、プエタ デル ソル、國峰照子、西條まゆ、高野文子、新実徳英 寄稿:谷川俊太郎、棚沢永子、松本隆、新川和江
写真:栗原論、宮島径、荒木政夫、磯俊一、一色一成、PIXTA(ピクスタ)
編集協力:棚沢永子
装幀・アートデレクション:椋本完二郎
校閲:栗原功
編集:林理映子