戦争と人びとの暮らし 上・下

著:半藤一利

発行:平凡社
発行日:2023/6/23

判型:A5縦判(210×148mm)
頁数:上巻368p 下巻336p
製版・印刷:スミ、プロセス4C、特色1C(特橙)、カバー、帯はマットPP加工
用紙:オペラホワイトマックス、オーロラコート、F1カード、b7ナチュラル
製本:あじろ綴じ並製本

シリーズ「半藤先生の『昭和史』で学ぶ非戦と平和」のうち、「戦争と人びとの暮らし 1926-1945 上下巻」 をご紹介いたします。

文中にA面、B面という言葉が何度も出てきます。普通の歴史書では扱われない日常の話をつなげていくことで昭和史を語ろうという試みで、解説にこうあります。

B面とは何か。若い皆さんはご存じないかもしれませんね。かつて、レコードやカセットテープの表側をA面、ひっくり返して裏側をB面と呼びました。メインの曲が入ったA面に比べ、B面にはいくぶん「オマケ」「脇役」的なニュアンスがこもっていたと思われます。しかしここでは「政治 ・経済・外交・軍事」を中心とする、いわゆる年表や教科書に書かれる事柄を「A面の歴史 」(本シリーズでは既刊『戦争の時代』上下巻で語られました)と呼び、そうではない、私たち国民の日常のいとなみを「B面の歴史」と呼ぶことにしたのです。
—上巻解説より

上巻は、大正十五年であり昭和元年でもある1926年からスタートし、日中戦争がはじまった翌年の昭和十三年(1938)まで。
「A面」的な大きな事件(例えば二・二六事件など)にも触れるのですが、すぐにストイック(?)なまでに「B面」的な話に戻ります。ジャンルを問わず様々なエピソード、流行や、新聞の三面記事、文学、スポーツ、時には著者自身の経験したことなどが積み重なり昭和史が肉付けされていきます。半藤一利さん、この作品ではユーモアたっぷり、興に乗って楽しんで書いておられるようです。しかし明るいエピソードの中に、報道への脅迫や圧力、言論の萎縮、国定教科書の全面的改訂、国家総動員法など不穏なものも。現在との相似がつい気になってしまいます。

下巻は昭和十四年(1939)から、敗戦をむかえる昭和二十年(1945)まで。

戦況の悪化とともにB面的な日常の楽しい話題は次第に減っていき、日本国民が熱狂をもって、軍と政府と一つになり、敗戦に突き進むさまが描かれます。章を追うごとに日常と戦争が切り離せないものになっていき「B面」だけで歴史を語ることが困難になっていく。矛盾をはらんだこの本の構造にゾッとさせられます。

各巻末にこのシリーズの編集者である山本明子さんの解説、下巻には著者半藤一利さんの「あとがき」があります。いずれも楽しく読めて、示唆に富み、読み応えのある文章です。「歴史はくり返す」と言いますが、くり返してはならない歴史とどう向き合うべきか、「B面」からも考えてみてはいかがでしょう。

モノクロ写真のカラー再現について

本シリーズのカバーでは、時代を象徴する代表的なモノクロ報道写真をフルカラーで再現。「戦争と人びとの暮らし」上巻では、浅草活動街の風景のフルカラー写真が起用されています。

日本が「満州国」を正式承認したのを祝う東京浅草の活動街の風景。 撮影日 1932年09月15日
写真=朝日新聞フォトアーカイブ、カラー再現=東京印書館

フルカラー再現後

(文・製版部 穂積)

担当レタッチャーより

片山 雅之

今回の画像は1932年9月頃、満州国正式承認を祝う、東京浅草の活動街を撮影したものです。
AIによるカラー化処理があまり機能しなかったため、一部を除いて手作業による着彩を施しています。

入稿した画像では、各所に掲げられた満州国国旗「新五色旗」が濃度の高い黒で潰れていた状態だったので、
できる限り階調が出るよう心掛けました。
同様に通りを歩く人びとの衣服も黒く潰れているものが多く、配色のバランスを考えながら不自然にならないよう着彩しました。

1932年当時はまだ日本国内の物資不足は深刻なものではなく、一般市民の服装もカラフルで
街並みの看板やポスターなどのデザインも凝っていたと聞きます。

しかしながら、満州国建国を機に国内の戦時統制は日を追うごとに厳しくなっていきます。
今回の一葉では、暗い時代に差し掛かる直前の、お祭り気分に浮かれる浅草の雰囲気が再現できたならばと思います。

編集協力:山本明子
装幀:木高あすよ(株式会社平凡社地図出版)
DTP:有限会社ダイワコムズ