増補 戦国大名 

著:黒田基樹

DTP:平凡社制作
装幀:中垣信夫

発行:平凡社
発行日:2023/4/10

判型:B6縦変型判(160×110mm)
頁数:304p
製版・印刷:プロセス4C、スミ、特色1C(特グレー)、特色1C(特橙)+スミ、カバーはマットPP加工
用紙:雷鳥コートN、ヴァル、HL用紙
製本:あじろ綴じ並製本

今回は、黒田基樹氏著『増補 戦国大名』をご紹介いたします。1980年代までの旧来の戦国大名論の成果を塗り替え、大名家・家臣団・村の三者関係による権力構造やその支配のあり方など、新しい戦国大名像を示し総括する1冊として、いまなおその評価を維持し続ける名著。新書版から補論2本を加えて再刊。

80年代以降の戦国大名研究のなかで、戦国大名と織豊大名(織田信長・豊臣秀吉に仕えた大名)・近世大名(徳川幕府に仕えた大名)との関係のとらえ方が大きく変化し、70年代までは、戦国大名と両者の関係は決定的に質が異なるものとされてきたのに対し、80年代以降は、そうしたとらえ方に対しては根本的な疑問が出され、実証的にも否定されてきています。現在では、戦国大名と織豊大名・近世大名とは領域権力ということで基本的な性格を同じくし、社会状況の変化に応じて、その様相を変化させていったものというとらえ方が強くなっているそうです。

かつて中世と近世を分かつキーワードとなっていた、「太閤検地」「兵農分離」「石高制」などの問題は、実は研究上の世界だけにおける、ある種の幻想であったことがはっきりしているそうで、昭和に日本史を勉強した方々にとっては、かなりのカルチャーショックかもしれません。実際、黒田氏がここ数年、高校日本史教員を対象に講演をした際にも、近年の戦国大名論と、従来の織豊政権論との論理的矛盾にどう対処したらよいのか苦心している教員の姿が見受けられたそうです。

本書は、80年代以降、あらゆる側面において、それ以前とは異なる内容に進展した戦国大名論の成果を集約する内容であり、戦国大名の基本的・全体的な構造と、民衆支配に関する構造についてを内容の基本にすえています。黒田氏の戦国大名研究として、北条氏の事例をあげ、領国支配機構論、国衆論、土豪論、「村の成り立ち」論、徳政論などを展開。そして政治権力の本質論は、何よりも民衆支配の構造の側面に表されていると考え、この部分が他の時代や異なる政治権力との本質的な対比・比較を可能にすると考えています。

信長や秀吉は、従来他の戦国大名より先進性があり、それゆえ天下一統をすすめ、近世社会の世を開けた、という従来の説にも本質的に不備があることが明らかになってきており、私たちが大河ドラマで見ているようなイメージとはかなり違うようです。

本書で展開されている戦国大名論は、従来のイメージを覆す”目から鱗”の内容です。日本史好きの方には、特におススメしたい1冊。ぜひご一読ください。