森山大道 記録 №52

発行:Akio Nagasawa Publishing
発行日:2022/9/30

制作:長澤章生
翻訳:アンドレアス・ステュルマン

判型:A4縦変型判(280×210mm)
頁数:120p
製版・印刷:スミ+特色1C(特グレー)、表紙はグロスPP加工
用紙:ミューコートEX、NW(ノーバックW)
製本:あじろ綴じ並製本

今回ご紹介するのは、森山大道氏のライフワークとも言える私家版写真誌『記録 №52』。日本を代表する写真家・森山大道氏が、毎号撮り下ろした写真で構成されている、ファン垂涎の写真誌です。

「記録」誌50号の発刊にさいして、AKIO NAGASAWA GALLERYの銀座スペースで、今年の5月末より10月頭に亘る長期のスライド・ショーが開催された。

会期中、すでにぼくは幾度となく会場に行って、7台のプロジェクターによってギャラリーの壁面にすき間なく映写される5,000点もの雑多なイメージの真中に立ち尽し、全身に当る光の破片のさ中で、日常とは遊離した不思議な感覚を体験した。

壁の周囲にびっしりとスライドされている写真は、たしかに自分が写したものではあるが、視界に映り、間断なく入れ替わっていく時・空の錯綜につれて、たったいま目にするイメージたちがすらっと遠のいて、ぼく自身が、どこか遠くの見知らぬ風景のさ中を夢遊し、さまよっている感覚になり変っていく。

東京、マラケシュ、ニューヨークと、間断なく映りつづける奇妙なイメージの混乱は、すでにもはや写した当人を離れて、写真本来に在るアノニマスの方向へと立ち戻っていく。オレが撮ったイメージだからなどということは全く離れて、いつしか映るイメージにある<写真>という名のスプリットそのものになるわけだ。

ぼくは自らのスライド・ショーを観ることで、いまさらながら、新たなる感応の在り様を識った。
ギャラリーのドアを開けて一歩内部(なか)に入ると、一種得体のしれない音声が耳に伝わってくる。

?と思うその音声は、あちこちの街頭で録音されたさまざまな音色が、幾重にもダブって、マカ不思議なノイズと化して、聴くもののなかにしみ渡ってくる。
突如、女の矯声が紛れこんだりするのだ。

-森山大道 あとがきより

カメラをことさらに構えて撮るのではなく、生理的感覚に身をゆだねてシャッターを切る大道氏のスタイルによって撮影されたこれらの写真は、既視感のある光景をとらえたものでありながら、スライドショーさながらに、匿名性を帯び、日常と切り離されて私たちの眼前に現れてきます。

また、大道氏はかつて、「僕にとって、写真とは一枚の美しい芸術作品を作るためのものではなくて、撮っても撮っても撮りきれず追いきれない膨大な世界の断片と、抜きさしならない自己の生とのかかわりのなかに、真のリアリティーを見つけるための、唯一の手段としてあるのだといえる。」(「主観的スナップ」初出『アサヒカメラ教室 第三巻 スナップ写真』朝日新聞社、1970年)と語っています。

この私家版写真誌は、その「追いきれない膨大な世界の断片」と「真のリアリティー」を追求する大道氏の記録と言えます。現在進行形で「真のリアリティー」を追い求める大道氏の今が堪能できる本誌。ぜひご覧ください。

記録52号 – 森山大道 | AKIO NAGASAWA

1938年大阪生まれ。写真家・岩宮武二、細江英公のアシスタントを経て1964年に独立。写真雑誌などで作品を発表し続け、1967年「にっぽん劇場」で日本写真批評家協会新人賞受賞。1968-70年には写真同人誌『プロヴォーク』に参加、ハイコントラストや粗粒子画面の作風は”アレ・ブレ・ボケ”と形容され、写真界に衝撃を与える。 …