おれに聞くの? 異端文学者による人生相談

著:山下澄人

発行:平凡社
発行日:2023/5/24

判型:B6縦変型判(188×128mm)
頁数:192
製版・印刷:スミ、プロセス4C、特色1C(特紫、特緑)、カバー、帯はグロスニス
用紙:オペラクリームマックス、ヴァンヌーボV ホワイト、NTラシャ 黄緑、NTラシャ グレー05
製本:あじろ綴じ並製本

今回は芥川賞作家・山下澄人氏著『おれに聞くの? 異端文学者による人生相談』をご紹介いたします。愛について、小説の書き方について、人間関係について……その悩みはあなたに必要ですか? 視点が反転するような回答が悩みを雲散霧消させる、芥川賞作家による異色人生相談。

サイトでこれは公開されている。当初は確か「外資就活相談室」というようなタイトルだったように思う。外資系、就職、相談。外資系どころか就職すらしたことのないわたしにこの依頼が来たとき、あまりにも無茶だと依頼者に問い合わせたら依頼者は「かまいません。むしろだからこそお願いしています」というようなことをいった。どういうことだろう。わたしに就職の相談なんかやれるはずがない。だってわたしは一度も就職したことがないんだから!お前に何がわかる!

—「まえがき」より

山下澄人氏は1966年兵庫県生まれ。富良野塾二期生。2012年『緑のさる』(平凡社)で第34回野間文芸新人賞受賞。2017年『しんせかい』(新潮社)で第156回芥川賞受賞。著書に『砂漠ダンス』『コルバトントリ』『君たちはしかし再び来い』ほか。『しんせかい』は役者を志す主人公が、「胸倉を掴まれる」ような出来事を期待して劇団に入るのですが、取り立ててなにも起こらないまま劇団を辞めることとなるほろ苦い青春の旅立ちを淡々とした筆致で描いていたのが印象的でした。

本書でも小説同様、質問者からの恋愛や家族、仕事など人生の悩み、小説の書き方、読み方についての相談に、「おれはおれ」「あなたはあなた」という距離感で、淡々と回答しています。一読するとこんなに真剣に思い悩んでいるのに冷たいような気がしますが、自分は他人にはなれないし、ましてやその頭の中や行動なんてもっとわからないんだから、自分の好きなように生きればいいんだと背中を押してもらえます。

「遠距離恋愛の相手に自分以外に気になる人がいると言われました」という相談者には、「ふられただけだぞしっかりしろ。」「親に死んでほしい」という毒親からの呪縛に苦しむ相談者には、「早く死ねと思うことも死んだときに喜ぶこともまったく何の問題もないし、思い切ってそう思えばいい。」「個性とはどのようなものですか」という質問には、「わたしは『個性』などというものを信用していません。どれもたいして違いがない。あるのは『好み』です。なので差別化やオリジナリティとなどという浅ましいことを考えることがない。好きにやっているだけです。」……

他人に過剰な期待をかけることなく、自分の好きなように生きるということは、誰かと繋がっていたい、どこかに属していたいと思いがちな私たち人間には、実はなかなか難しいことです。生きていく上の大小さまざまな悩みも、本書をお読みいただければ、ある意味達観している山下氏のシンプルな言葉が打ち消してくれます。ぜひご一読ください。

装丁・本文デザイン:岩瀬聡
装画・本文イラスト:霜田あゆ美
写真:神ノ川智早
協力:株式会社ハウテレビジョン