荒木経惟写真集 往生写集
著:荒木経惟
発行:平凡社
発行日:2014/4/25
判型:B5横変型判(182×245mm)
頁数:336p
製版・印刷:スミ+特グレー、プロセス4C、CMY(蛍光混)+スミ、特色1C(スーパーブラック、ゴールド)、ケースはマットニス、表紙はグロスPP加工
用紙:b7トラネクスト、タブロ、アカシヤ、オペラクリアマックス、アスカα、ルミナホワイト、パールコートNA
製本:無線綴じPUR製本
今回は、2014年に刊行された荒木経惟氏の写真集『往生写集』をご紹介いたします。
「荒木経惟 往生写集」展にあわせて刊行された写真集。第1回太陽賞受賞作「さっちん」や「センチメンタルな旅・冬の旅」「チロ愛死」などの名高い作品から、最新作「8月」「去年の戦後」「道路」まで、荒木氏が50年にわたって見つめてきた生と死のすべてを収録。
この写真集には、”アラーキー”こと荒木氏の大衆的なイメージとも言える、エロティックでフェティッシュな表現のヌード写真はほとんどなく、「往生=死」をテーマに、過去の名作から、2013~14年に撮影された刊行当時の新作までが収録されています。
荒木氏は、私的な眼差しでアプローチした私小説のような写真、”私写真”を確立した写真家です。”私写真”の金字塔「センチメンタルな旅・冬の旅」は、妻・陽子さんとの新婚旅行(センチメンタルな旅)と、陽子さんの死の前後の記録(冬の旅)で構成されています。荒木氏と陽子さんの生と死の記録が、私たちの身近にある「愛する者を失った喪失感」のような普遍的な感情を揺り動かします。
また、愛猫チロの老いて病みやせ細り亡くなるまでの日々も、克明に記録しています。花に囲まれ棺に眠るチロの姿も、陽子さんのそれ同様に私たちの胸に迫ってきます。
荒木氏が、”私写真”に取り組みもがいていたころに書いた「母の死——あるいは家庭写真術入門」という文章の一部をご紹介します。
横須賀功光がくれた花束をちぎって、花で埋めた、子供たちに花で埋められた、母の顔を見て、触れて、冷たくなった頬に触れて、私はカメラをもってこなかったことを後悔した。こんなに、いい母の顔を見たのは、初めてのような気がした。 私は凝視した。そこには、現実を超えた、現物があった。まさしく、死景であった。超二流の写真家である私は、写真が撮りたくてしかたがなかった。
(中略)あまりにもわずかの骨になって熱風とともに出てきた母を見て、私は、またまたカメラをもっていないことを悔んだ。あれは、絶対に撮っておきたかった。そして、骨壺に、大きめの骨を選んで妻といっしょに入れる時、あれら骨を、母を、接写したかった。触写したかった。
その気持ちには、かなりの打算がまざりあっていた。それは写真家としての打算である。人間として失格なのかもしれない。そんなことはどうでもいい、打算的な写真家としての私は、そのことについてまったく反省はしていない。私は、写真が撮りたかった。打算で、写真が撮りたかったのだ。母の死は、卑小な写真家である私を、批評し、糧となった。
ー「母の死——あるいは家庭写真術入門」(初出『WORKSHOP』創刊号、1974年9月)より
この文章は、自分自身と、身近な者の生と死を、最も近い場所から撮影する「写真家」としての決意表明ともとれます。1990年に陽子さんが亡くなった時、荒木氏は今度こそ「絶対撮っておきたかった」ものを撮影します。陽子さんの死に顔から遺骨まですべてを。
荒木氏のこれらの写真は、荒木氏の個人的な出来事を飛び越えた、普遍的な感情を呼び起こしてきます。人間の生と死に寄り添った、素晴らしい写真集です。ぜひご覧ください。
編集:隈千夏、大舘奈津子(一色事務所)、足立亨(平凡社)
英文校閲:株式会社アドバンティジ・リンクス
デザイン:名久井直子
往生写集 – 平凡社
「荒木経惟 往生写集」展にあわせて刊行された写真集。第1回太陽賞受賞作「さっちん」や「センチメンタルな旅・冬の旅」「チロ愛死」などの名高い作品から、最新作「8月」「去年の戦後」「道路」まで、荒木が50年にわたって見つめてきた生と死のすべてを収録。写真点数=300点(モノクロ/カラー)。執筆=浜田優、マリオ・ペルニオーラ、藤野可織。デザイン=名久井直子。和英併記。 …