ニワトリと卵と、息子の思春期

著:繁延あづさ
装丁・本文デザイン:三村漢(niwa no niwa デザイン事務所)
装画:山口智子

発行日:2021/11/30
発行元:婦人之友社
判型:四六判(188×128mm)
頁数:176頁
用紙:b7バルキー、OKミューズガリバーマットCoC ホワイト、しらおい、エコジャパンR(きいろ)
製版・印刷:本文はプロセス4C、スミ1C、表紙はスミ1C、カバーはプロセスCK+特マゼンタ+特イエロー+グロスニス
製本:あじろ綴じ並製

今回は、繁延あづささん著の『ニワトリと卵と、息子の思春期』をご紹介いたします。

「ゲームの代わりにニワトリを飼わせて」の言葉とともに、周到に「にわとり飼育計画書」を用意していた小6の長男。親子の攻防の末に繁延家にニワトリがやってくる。長男の目的は卵を売りお金を得ること。地域の人たちに助けられながら、養鶏生活がまわり始める。けれども、一筋縄にはいかないことの連続。そんな日常の中で、思春期の息子と本気で向き合う著者。

そこにはぶつかり合いも喧嘩も生じる。やがて、ニワトリを絞めて捌き、食すことで、命とその向こうにあるものを考える。コロナ禍、夫のリストラから生まれた父子の関係性の変化は、まさにユングの“父親殺し”。同時に「母とは、なんと儘ならないものか」と自分を見つめ直しながら、その葛藤をありのままに綴る。子育てを、親子の関係性を問い直す1冊。

本文中思春期の息子さんの言葉が、現在子育て中の私にもグサグサと突き刺さり、私だったら自分の子どもにこんなこと言われてしまったら腹を立てるだけで冷静に返答できるだろうか…と自問自答しながら大変興味深く読ませていただきました。この息子さん(と次男と末っ子長女と夫)たちと向き合い、対話し、時には対立しつつも家族という集団をまとめている繁延さんの姿はとてもたくましく頼もしいです。また「命を食べること」すなわち「殺すこと」について考えるうえでも、子どもが実体験を通していかに考え成長していったかをうかがい知ることもできます。 

弊社プリンティングディレクターからは、カバーイラストと本文中の繁延さんの写真に全体として共通する温かみのあるトーンを大事にし、特にニワトリと卵はディテールが浮き立つような製版、印刷に留意したとのこと。

また装画の山口智子さんは、以前展覧会図録「ききょう kikyo」を弊社で印刷、製本をお手伝いさせていただいたご縁があり、清澄な透明感が印象的な女性像や自然や日常をモチーフに描き続けているアーティストです。カバーイラストの、ニワトリの卵を掲げこちらを見つめてくる少年の瞳は一見儚げでもあり頼もしくも映ります。(ページ中に「ききょう kikyo」の画像を一部ご紹介しています。)

子育て中様々なシチュエーションで「このあと私はどう母(父)を続ければいいのだろう」と思うことがきっとあるはずですが、その道しるべとなる必読書です。

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