巨大な燃油タンクが美術館に変身。「上海油罐芸術中心」が上海・西岸エリアに誕生
今年3月に上海にオープンした飛行機の燃料タンクをリノベーションした美術館「TANK SHANGHAI(上海油罐艺术中心)」。西岸と呼ばれるこの一帯は工場跡地や倉庫をリノベーションしたアートスペースが点在する注目のエリアです。
今回は9月13日〜9月15日にかけてこちらのTANK SHANGHAIで開催された”TANK ART FESTIVAL(油罐玩家艺术节、そして”SHANGHAI ARTBOOK FESTIVAL,TANK EDITION”の様子をお伝えしたいと思います。
最寄駅の地下鉄11号線「云锦路(ユンジンルー)」駅で下車。周辺はだだっ広い工場跡地や建設中のビル群ばかりで、人通りも車通りも少なく、開発中の広大な埋立地のような印象です。
徒歩約10分程で目的地に到着。丸い燃料タンクが目の前に突如現れました。まずは入り口で美術館のチケットを購入。当日券は90元(=約1,350円)、チケットをリストバンドに交換してもらい、これで全ての展示スペースへの出入りが自由になります。
アートフェスティバルの会場は8つのエリアに別れており、それぞれ別のコンセプトでイベントや展示が行われています。入口付近の展示はこんな雰囲気です。
電気椅子のような装置に腰掛けて身体に描かれた文字をモニターに写し続けている男性は見ている限り1日中この体勢でパフォーマンスを続けていました。続いて2階に上がります。複数の中国の現代アーティストによる共作「原力寺/Force Temple」と題された特設展示/インスタレーション。映像、音、オブジェ、光が織りなすカオスな迫力に圧倒されます。その場にいないと迫力はなかなか伝わりにくいのですが、拙い動画で雰囲気だけご紹介します。
〜フォース・テンプルは舞台と遊び場が混在しており、寺院などの宗教的な巡礼地で求められる一種の心理状態を提供する目論見だ。この展覧会は、すべての人が全体の一部となるような雰囲気を作り出すことを目指している。子どもの遊びや訓練されていないの心の中において、実のところアートは奇想天外な思考から始まる。監修 Tang Dixin、Kate Yuying Yang〜(作品解説より)
そして、”SHANGHAI ARTBOOk FAIR, TANK EDITION”の会場へ。SHANGHAI ARTBOOK FAIRはM50クリエイティブパークというアートスポットで2018年6月、2019年5月にそれぞれ3日間開催されていますが、今回は”TANK SHANGAI版ということでアートフェスティバルの一環として特別に開催されたようです。計34の中国国内外の出版社、ギャラリー、アーティストのブースが出ており、時間帯によっては人だかりで身動きが取れないほどの賑わいでした。
日本からの出展も多く、中国国内以外では一番多かったのでは。中国のギャラリーや書店のブースでも、馴染みのある日本の写真家の作品集や書籍をよく見かけました。
ブックフェアの楽しさは対面で本の作り手や出版社から話を聞けることに尽きます。特に予備知識もなく何気なく手にとった一冊であっても、制作にまつわるエピソードを聞けたり、作品への想いが伝わるとつい購入したくなります。その場所、そのタイミングでしか手に入らないというのも大きいです。以下、今回のフェアで手に取った本を一部ご紹介。
こちらの雑誌/写真集は神奈川県逗子を拠点に制作活動をされているアーティスト野口恵太さんによる雑誌/写真集「PLANKTON」の創刊号です。「美しきもの」を唯一のテーマにしている雑誌でもあり、写真集であり、エッセイ集。こちらの第ー号では、著者が旅先のポルトガルで出会った人たちのポートレイトと風景写真が一冊にまとめられています。移民国家のポルトガルで出会う多様な出自、国籍の人々とのやりとりや、ふとした生活の一場面が写真と共に淡々とリアルに綴られており、気がつくと何度も読み返したくなります。
こちらは実際には購入しませんでしたが、北京にあるデザイン事務所「Overlap Design Center(重合设计)」の作品です(写真左)。ビニールシートで作った袋の中に中国の学校教育(小学校〜大学)を風刺したハンドメイドの「教科書」がセット組で収まっています。ブースにいたデザイナーの方は「中国の学校教育は社会で全く役に立たない」ということを繰り返し説明して下さいました。内容が内容だけに、出版自体リスクがありそうです。街の書店やネットで見つけるのは不可能と思いますので、買っておくべきだった…と少し後悔。
*フードコートの様子と展示室内で営業するトウモロコシ屋台。会場での食事は500円前後。
ということで”TANK ART FESTIVAL”と上海ART BOOK FAIR, TANK edition”の様子を駆け足でお伝えしました。今年、東京都現代美術館で開催された東京ARTBOOK FAIRには出展社として参加しましたが、規模と国は違えど共通のカルチャーを感じることができました。あくまで印象ですが、写真集や美術書、さらにいえば「本」への比重は今回訪れた上海の方が少し強いようなイメージです。
もう一つ、現金が殆ど使われていないために、何度かお釣りをお店の人に探させてしまいました。。これはブックフェアに限った話ではなく、屋台でも市場でも中国ではWechat pay(微信支付)やアリペイ(支付宝)でQRコード決済が浸透しており、現金を見かける機会が確実に減っています。
便利そうで羨ましいのですが、中国で居住権のない外国人は中国の銀行に口座が作れないため、これらの決済サービスの利用は現時点では難しく、現金を使用せざるを得ません。なんとか将来、外国人も使えるようにハードルを下げてもらいたいものです。
最後に、上海での宿泊と交通について。今回はこちらのTANK SHANGHAIから地下鉄で約25分ほど離れた老成門というエリアに宿泊しました。古い上海の下町情緒が残る、活気溢れるエリアです。
この下町の真ん中にあるShanghai Old West Gate Hostelに宿泊。シングルルームで1泊約2,000円。リーズナブルで交通の便も良く、何より上海の鄙びた下町の暮らしを間近に感じられる貴重な地域です。
日本からのフライトについて、東京方面から上海に向かう場合は茨城空港発着の春秋航空便がオススメです。安い時期であれば往復20,000円〜30,000円でチケットが取れます。東京駅から茨城空港まで500円で送迎バス就航しており、小さな空港のためチェックインや出国も手続きも早いです。東京方面から上海に行くなら、茨城空港の利用をオススメします!