東京浅草に45年以上通い続け、境内へ続く通り沿いの朱色の壁を背景に、被写体となる行き交う人々をポートレイトに収め続けてきた写真家鬼海弘雄氏の伝説の写真集”PERSONA”。2003年に刊行された本作は世界中に大きなインパクトを与え、今尚多くの人々を魅了し続けています。
15年を経て、今回2005年以降に撮影された浅草でのポートレイトの集大成として”PERSONA 最終章 2005-2018″がついに刊行されました。
2003年の”PERSONA”に引き続き、今回の最終章もプリンティングディレクター高柳の指揮の下、東京印書館で製版・印刷を担当させて頂きました。
今回は15年前の”PERSONA”印刷当時も振り返りつつ、印刷技術・時代の変遷を経て、今回の最終章の印刷にいかに取り組んだのかについてディレクターに改めて話を聞きました。
PD高柳昇談:PERSONA 2003年版〜最終章の製版・印刷について
Q1. 15年前に製版・印刷したPERSONAについて、現在のように高度なデジタル画像処理技術やいわゆるCTP(データをコンピューターから直接版に焼付ける技術)も確立・普及していない時代だと思いますが、当時の製版・印刷時のエピソードや、苦労した点などについて教えてください。
2003年当時の製版工程は、全くのアナログ製版でした。
モノクロプリント原稿(印画紙)をスキャナーで①墨版、②コントラストが強い硬調墨版、③グレイ版に分版してから手作業で集版します。
モノクロプリント原稿一点一点の異なる濃度域(明部、中間、暗部の面積率の差)を、スキャナー分版時に一点一点、階調補正をするわけです。
ただし、当時は今日のフォトショップなども無く、今回の「PERSONA 最終章」のようにデリケートな部分階調補正は出来る術もありません。その為、製版段階での写真一点一点の階調面での補正は未熟であり、印刷時の調子合わせには今とは比較にならないほど時間がかかりました。
Q2.前回はいわゆるトリプルトーン+色ニス版の設計だったのに対して、今回はスミ・グレーのダブルトーン+色ニス版が採用されていますね。今回、ダブルトーンで前回に劣らない深みを出すために、どのような点を工夫しましたか?
2003年版ペルソナと異なり、今回の最終章はダブルトーン+ニスという設計を採用しています。
今回は硬調墨版が無い為、2003年版と同様の墨版階調では対応ができませんでした。特に、2版では暗部濃度(濃さ)が足りません。ですから今回の製版では、高濃度の印刷でも暗部階調が潰れにくい版を作ることを特に意識しましたね。
Q3. ドイツのシュタイデル社が2008年に”Asakusa Portraits”と題してPERSONAを再構成・刊行しています。こちらもトリプルトーンで製版されており、スミ・グレーと淡いグレー版が使われています。今回のPERSONA最終章の製版・印刷にあたっては、比較対象としてシュタイデル版との違いをいかに出すかという点もテーマの一つだったとお聞きしています。
「シュタイデル社版ペルソナ」と違い、我々は淡グレー版を使用していませんから、明部の階調が貧困になりやすいという弱みがある。
しかし、何としてでもグレー版のみで明部の階調を豊かに再現しなければならない。この階調の貧困さが目立つのは、顔部分です。
顔の立体感(階調)を出すため、顔部分を中心にコントラストをつける部分補正をし、明部の階調不足という欠点を克服しています。
Q4.PERSONA第1号から15年をの時を経て、今回の最終章に到るまでプリンティングディレクターとして製版・印刷に携わってきた高柳さんが考える写真集PERSONAの魅力についてお聞かせください。
一言で申し上げるなら、何度でも繰り返し鑑賞したくなる写真集です。何度見てもおもしろい。また、見はじめたら最終ページまで止められない。まるでカッパえびせんのようである(笑)
そして何より、鬼海弘雄さんの精神性、心の奥を強く感じられることに尽きます。
Q5. 最後に、今回の制作過程で印象深かった鬼海先生とのやり取りをお聞かせ頂きたいです。
これは、実際の鬼海さんから頂いた言葉を紹介させてください。
「このペルソナ最終章は、僕と高栁さんの棺桶に入れられるような写真集にしようよ!」
*色校正時に 「原稿(モノクロプリント)なんか、もう見なくてもいいよ。僕のことを一番わかっている高栁さんが、これが世界一の印刷だと言える写真集を作ってよ!」
「PERSONA 最終章」特設サイト〜サイン入り書籍のご購入
以下、筑摩書房様特設サイトより著者サイン入り書籍がご購入頂けます!
http://www.chikumashobo.co.jp/special/persona/
・A4変型判(天地270mm×左右220mm)上製・カバー装・232頁
・写真205点ダブルトーン印刷+ニス
・PD: 高柳昇(東京印書館)
・発売日2019年3月29日
・定価(本体価格10,000円+税)