なぜ英国は児童文学王国なのか ファンタジーの名作を読み解く

著:安藤聡

装幀:宇佐美牧子

発行:平凡社
発行日:2023/4/27

判型:B6縦変型判(188×128mm)
頁数:344p
製版・印刷:スミ、プロセス4C、特色1C(特茶)、特色2C(特赤+特スミ)、カバーはグロスニス
用紙:オペラクリアマックス、ヴァンヌーボV-FS ホワイト、コニーラップ ホワイト
製本:あじろ綴じ上製本

今回は、安藤聡氏著『なぜ英国は児童文学王国なのか ファンタジーの名作を読み解く』をご紹介いたします。

『不思議の国のアリス』『ナルニア国物語』『借り暮らしの小人たち』『くまのパディントン』そして『ハリー・ポッター』まで、時代を超えてファンタジーの傑作が生まれる英国。その背景には英国特有の風土や文化、歴史的要因があった!

ー平凡社ホームページ紹介文より

『不思議の国のアリス』『ピーター・パン』から『ホビット』『ナルニア国物語』『ハリー・ポッター』まで、19世紀後半から現在に至る英国には児童文学の名作が数多くあります。安藤氏によれば、英国に児童文学の名著が多い理由は、英語で書かれているため広く世界中で読まれ評価されやすいことだけではなく、児童文学に限らず叙事詩・演劇・抒情詩・小説・評論・博物誌・伝記など、英国は多様な分野で名作が輩出し続ける文学の国だからと言えるそうです。

また安藤氏は、英国の児童文学には特にファンタジーに優れた作品が多く、ファンタジー王国としての英国特有の背景として、アングロ=サクソン的現実性とケルト的空想の対照をなした共存、風土の多様性、古い屋敷や庭園、古木が多く残っていることなどに加えて、「親の不在」を指摘されています。

児童文学の作者と読者は、上流中産階級の家庭に属し、子供は子供部屋に囲い込まれ乳母の手に委ねられ、一定の年齢になれば全寮制学校に送られるため、親子の関係が比較的希薄であり、それが優れたファンタジーを生み出す条件の一つとして機能していたと考えられるそうです。本書では、この「親の不在」が児童文学の名作が生まれる際にいかに重要であったかについて述べられています。

英国特有の背景や風土、子供をめぐる環境や国民的特徴など、さまざまな要因が英国を児童文学王国たらしめていることが、本書をお読みいただくとよく理解できます。この総論に加え、第Ⅰ部に『アリス』から『マティルダ』まで個別の作品論八編、第Ⅱ部には『ナルニア国物語』とその周辺に関する四編、第Ⅲ部には随筆的なもの四編が収録されています。児童文学の名著の数々に鋭い考察がなされており、児童文学がお好きな方には大変興味深い内容となります。ぜひご一読ください。