英伸三写真集 モンローの皺 ある城下町の行方

著:英伸三

文:英愛子

アートディレクション:滝川淳

発行:現代写真研究所出版局
発行日:2020/11/1

判型:B5縦変型判(232×185mm)
頁数:144p
製版・印刷:プロセス4C、特色1C(シルバー)、カバーはグロスニス
用紙:ニューVマット、OKミューズガリバーリラ ホワイトS、タントセレクトTS-6 S-3、ハンマートーンGA ナチュラル、ヴァンヌーボVG スノーホワイト
製本:糸かがり並製本

今回ご紹介するのは、2020年刊行、写真家・英伸三氏の写真集『モンローの皺』です。

英伸三氏は1936年千葉市生まれ。東京綜合写真専門学校卒。日本写真家協会会員、現代写真研究所所長。農村問題を通じて日本社会の姿を追い続けています。この写真集は、英氏が、妻の愛子さんのご実家のある旧城下町大分県中津市の光景を、何度も訪れ、撮りためた写真をまとめたものです。

十年ほど前、夏休みで行った時、そのコンビニの真向かいの雑居ビルの壁に、マリリン・モンローの写真が大きく飾られていた。(中略)彼女を取り巻くピンクの壁に広告の文字もなく、ここだけは俗世を離れた華やかな空気が流れているようだった。なん年かこの写真を見続けているうちに、モンローはハリウッドのセックスシンボルなどではなくて、町内のきれいなおねえさんのような親しい存在になっていった。

だが、二年前の春訪れた特、写真に異変が起こっているのを発見した。街角で雨に打たれ風に晒されているうちに、写真の表面加工のフィルムが劣化して白い線が走り、まるでモンローさんの顔に皺が寄ったようになっているのだ。気がつけば、皺が寄ったのはモンローさんだけでなく、一帯もすっかりさびれ、雑居ビルは空室が目立つようになっていた。

—本文5ページ「マリリン・モンローの皺」より

モンローのビルの真向かいにあるコンビニは、英氏の義妹夫婦が経営してきましたが、市の都市開発が進み、映画館や書店、喫茶店、洋装店などが次々と姿を消し、中津らしい活気を見せた魚屋も大型スーパーに入ってしまうなど、寂びれていく街のなかで気力を失い、2018年に閉店されてしまったそうです。

また、この雑居ビルのマリリン・モンローの写真をご覧いただくと、違和感をおぼえるかもしれません。なぜなら彼女のトレードマークとも言えるほくろとブロンドの髪の分け目が反転しているからです。何年も、ピンクの壁の中で微笑んでいた反転のモンロー。36歳の若さで亡くなった彼女のミステリアスで悲しい最期が、寂びれゆく中津の町の姿とシンクロしていきます。

シャッターの閉まった商店が目立つようになり、大型ショッピングモールだけが賑わっている中津の光景を眺めると、地方都市出身者の方は自分の故郷の姿と重ね合わせ、なんだか切ないような寂しいような気持ちとともに、郷愁も誘われるのではないでしょうか。ぜひ多くの方にご覧いただきたい写真集です。