乱れる海よ
著:小手鞠るい
装幀:アルビレオ
発行:平凡社
発行日:2022/10/19
判型:B6縦変型判(188×128mm)
頁数:248p
製版・印刷:スミ、特色1C(特グレー)、特色1C(特青)+スミ、プロセス4C、帯、表紙はマットニス、カバーはマットPP加工
用紙:オペラクリアマックス、アラベール スレートブルー、TSギフト-1 ローアンバー、タントセレクトTS-3 N-9、エアラス スーパーホワイト
製本:あじろ綴じ上製本
今回は、小手鞠るい氏の長編小説『乱れる海よ』をご紹介いたします。
「生まれてきたからにはこれが仕事だと言えるような何かがあるはずだ」──。
アメリカ在住の日本人ノンフィクションライターが、引っ越し作業中にふと手にした一冊の本。それは50年前の世界的事件を追うことになる迷路の入り口だった。半世紀前の1972年5月30日、イスラエルのテルアビブ空港で起こった乱射テロ事件。起こしたのは3人の日本の若者たちだった。彼らはなぜ遠い異国の地でそんな事件を起こしたのか。それは崇高な使命感からだったのか、それとも別の残虐非道な目的からだったのか。そして、事件の首謀者・渡良瀬千尋が短い生涯で遺したものとは。
正義と使命感に駆られた人間の「光と影」をリアルに描いた、文筆生活40周年、新境地を拓く著者渾身の長篇小説。【著者からのコメント】
恋愛小説ではありません。歴史小説でもありません。今から約50年前に、世界で初めて空港で乱射事件を起こして、その後の世界秩序を塗りかえてしまったのが日本人であった、という事実を今の日本で認識している人はどれくらいいるでしょうか。これは負の事実かもしれません。しかし、事件を起こした人物(私の高校の先輩)を、私はどうしても全面的に否定できないのです。なぜなのか? その理由を知りたくて、この作品を書きました。
ー平凡社公式HPより
1972年5月にイスラエルのテルアビブで起こった実際の無差別乱射テロ事件の犯人・奥平剛士をモデルとした物語です。正義と使命感に駆られた献身の人、奥平剛士≒渡良瀬千尋はなぜこのような凄惨なテロ事件を起こしたのか。
もちろん崇高な目的のためには、人命を奪うことも厭わないテロリズムに同意することはできませんが、彼らがその破滅的な道を進むほかなかった、あるいは進むことが最善の選択であると思い最悪な結果を招いたという事実を前にした時、私たちはなぜ、どうして、というやり場のない問いに胸をかきむしられる思いがします。
読み終わった後にずーんと鳩尾が重くなる辛いテーマですが、小手鞠るい氏が「距離感」を大切に描き切った奥平剛士≒渡良瀬千尋。男女平等や貧困のない世界を思い描いた彼の短い生涯から感じることも多いかと思います。ぜひご一読ください。