危機の時代の神学 フロマートカ著作選
著:ヨゼフ・ルクル・フロマートカ
訳:平野清美
監訳:佐藤優
装幀:松田行正
発行:平凡社
発行日:2023/3/24
判型:B6縦変型判(188×128mm)
頁数:616p
製版・印刷:スミ、特色2C(特赤ダブル)+スーパーブラック、特色1C(特赤)、スーパーブラック、特色2C(特赤ダブル)、カバー、帯、表紙はマットニス
用紙:淡クリーム琥珀N、ヴァンヌーボV-FS スノーホワイト、アラベール ウルトラホワイト
製本:あじろ綴じ上製本
今回は、ヨゼフ・ルクル・フロマートカ著、平野清美氏訳、佐藤優氏監訳『危機の時代の神学』をご紹介いたします。作家・佐藤優氏が最も敬愛するチェコの神学者フロマートカの未邦訳論文集。1968年「プラハの春」を体験しソ連に抵抗、激動のチェコ史を生きた神学者を支えたキリスト教信仰の核に迫ります。
キリスト教では危機の時代に人を、時代を動かすような変革をもたらす思想が生まれてきました。ロシアのウクライナ侵攻により、東西陣営が激突するいま、求められる思想とは——。フロマートカが、1958年にキリスト者平和会議を創設したのは、核戦争の危機から人類を救い出すためでした。その基礎にフロマートカは対話を据え、資本主義国のキリスト教徒、社会主義国のキリスト教徒の対話を推進するとともにチェコスロヴァキア国内においては、キリスト教徒とマルクス主義者の対話を積極的に推進しました。
政治体制、世界観、価値観が異なる人々の間でも「人間とは何か」というテーマでならば対話は可能であり、対話によって、互いに変容していくことが重要であるとフロマートカは考えました。実際、対話によって人間的な化学変化が生じ、チェコスロヴァキアでは、キリスト教徒よりもマルクス主義者の方がより大きく変化しました。そして、いわゆる「プラハの春」を支えた思想、硬直したマルクス・レーニン主義を乗り越えて「人間の顔をした社会主義」を思考するようになったのです。
「プラハの春」は社会主義体制を前提とした民主化運動でしたが、1968年8月、ソ連を中心とするワルシャワ条約機構五カ国軍によって力で圧し潰されました。フロマートカはワルシャワ条約機構五カ国軍の侵攻に公然と反対します。占領軍の即時撤退を求めたフロマートカは、東側諸国で政治的に好ましくない人物、CIAの手先と見なされましたが、フロマートカにとって重要だったのは、常にイエス・キリストに従い、「然りには然り」「否には否」と述べ、行動することでした。佐藤氏も人生の岐路に立ったときにはフロマートカに倣い、イエス・キリストに従う道を選ぶようにしているそうです。
現下の西側連合とロシアの間でも対話がほとんどなされていません。西側連合から見れば民主主義対独裁という政治的価値観の対立、ロシアから見れば、真のキリスト教徒(正教徒)対悪魔崇拝者という宗教的価値観の対立。佐藤氏は平和憲法が定着しているはずの日本で、正義のウクライナを断固応援する論調に支配され、戦争熱に浮かされている現状に恐ろしさを感じています。佐藤氏はウクライナ戦争勃発直後から、即時停戦を訴える立場を貫いています。
核保有国間の戦争を絶対に起こしてはならないとフロマートカは確信し、平和運動を始めました。フロマートカの想いを継承する神学者として生きようとする佐藤氏は、現在もロシアの有識者との対話に努めておられます。
またフロマートカは、人間の命は神から貸与されているものと考え、さらに神が具体的な人間を名指しして、具体的な場所と特定の時間に呼び出す(召命))ことを強調しました。誰もが神との関係で、自分がやらなくてはならない任務があり、それは病気になっても免除されないと言っています。本書は、佐藤氏が現下の日本でやるべき重要な仕事として、これまで日本で紹介されていなかったフロマートカの主要著作を翻訳し、容易にアクセスできるようにしたものとなります。現下の日本と世界の危機を克服するためのヒントが多数含まれています。ぜひご一読ください。