中藤毅彦写真集  香港2019

著者:中藤毅彦

発行:禅フォトギャラリー/Zen Foto Gallery
発行日:2020/10/31

判型:B5縦変型判(200×200mm)
頁数:132p
製版・印刷:特色3C(特スミ+特グレー+グロスニス)、特色4C(特スミ+特グレー+特黒+特黄)、表紙はマットPP(Jスクラッチ)加工
用紙:b7トラネクスト、OKトップコート+、タント N-59
製本:糸かがり上製本

今回は、写真家・中藤毅彦氏の写真集『香港2019』をご紹介いたします。

2019年、香港島の大館當代美術館で開催されたサイバーパンクをテーマにした展覧会「PHANTOM PLANE 幽霊維面」に参加する事になり、数度に渡って香港を訪れた。

香港を訪れたのは1994年以来、実に25年ぶりである。前回は中国への返還直前、初めての海外一人旅であった。
展覧会への参加だけではなく、記憶を辿りながら再び街を撮りたくなるのは当然の事だ。
僕は、矢も盾もたまらずにカメラを手に民主化デモに揺れる香港の街に繰り出していた。

ちょうどこの時期、民主化運動のデモの嵐はピークに達しており、必然的に自由を叫ぶ大群衆の行進や若者達と警察の激しい闘いの壮絶な光景を目撃する事になった。

12月に開催された老若男女数十万人によるデモ行進では、見た事もない数の人間が巨大なうねりとなって大河の様に流れていた。
日の暮れた後も、途切れる事のない人々がかかげるスマホライトの無数の光は、生涯忘れられないであろう胸を打つ光景だった。
勇武派と呼ばれる過激な若者達の抗議活動の現場では、筆舌に尽くし難い激しいエネルギーと暴力が渦巻いていた。

若いデモ参加者が大勢の機動隊に袋だたきにされ拘束される姿には大きなショックを受けた。
僕自身も催涙ガスにむせび、機動隊にサーチライトを直射され、身体的な消耗と恐怖すら覚えながらの撮影となった。
強大な武力を持つ権力によるなりふり構わぬ暴力は、同じ時代の現実の出来事とはにわかに信じられなかった…。― 中藤毅彦(Zen Foto Gallery ホームページより)

中藤毅彦氏は1970年、東京生まれ。早稲田大学第一文学部中退、東京ビジュアルアーツ写真学科卒業。モノクロームの都市スナップショットを中心に作品を発表し続けています。

2019年に起きた香港民主化デモとは、中国で何か犯罪の疑いをかけられた容疑者が香港にいた場合、中国に引き渡すことを可能にする逃亡犯条例改正案に端を発し、条例改正案の撤回や行政長官選挙への直接選挙の導入、デモを「暴動」と認定した香港政府見解の取り消しなどいわゆる「五大要求」を掲げた民主化デモ運動です。

当時日本でも、このデモ運動のニュースは連日放送されており、ご記憶の方も多いかと思います。デモ隊と警察の衝突も連日報道され、警察の催涙スプレー攻撃を防御するため、デモ参加者が一様に傘をさしていた光景も印象的でした。このデモが「雨傘運動」とも言われる所以です。

2019年に香港を訪れた中藤氏が、100万人が参加したとも言われるデモの光景を目の当たりにした際、「矢も盾もたまらずにカメラを手に民主化デモに揺れる香港の街に繰り出し」ていたのは、写真家としての本能でしょう。

イギリス統治下時代の香港の国旗を掲げ行進したり、傘をさし身を守るデモ隊の人々、防護マスク姿の警察や軍、燃え盛る火炎瓶、バラバラに壊されたバリケードの残骸…その一方でビルなどの建造物、通勤風景、商店の店先、結婚したばかりのカップル、僧侶、牛など、香港の人々の普通の暮らしも垣間見えるショットがちりばめられています。

粒子の荒いモノクロのハイコントラストで撮影されたこれらのストリートショットは、激動する香港の瞬間を、余分な情感を排除した「観察者の眼」で切り取っています。

印刷に際し、インキは特に濃いスミのスーパーブラックとグレーを使用し、ダブルトーンで暗部の締まりと階調を表現、写真表面にはグロスニスをひき立体感と光沢感を出しています。表紙については耐光性の高いインキを用い、Jスクラッチという傷のつきにくいPPフィルム加工を施して、黒と黄色のコントラストの美しいデザインが、経年変化に耐えうるように配慮しました。

激動の変化が今なお続く香港を記録した写真集です。ぜひご覧ください。

アートディレクション:柿沼充弘
プロジェクトマネジメント・翻訳:柿沼ボニー
Special Thanks:初沢亜利、キセキミチコ、譚雪

香港 2019 – 中藤毅彦 | ZEN FOTO GALLERY – アジア諸国の写真を専門に紹介するギャラリー・出版社

2019年、香港島の大館當代美術館で開催されたサイバーパンクをテーマにした展覧会「PHANTOM PLANE 幽霊維面」に参加する事になり、数度に渡って香港を訪れた。 香港を訪れたのは1994年以来、実に25年ぶりである。前回は中国への返還直前、初めての海外一人旅であった。 展覧会への参加だけではなく、記憶を辿りながら再び街を撮りたくなるのは当然の事だ。 …