漁民の芸術Ⅰ
発行人:モリ ナヲ弥
発行日:2023/10/11
編集・テキスト:モリ ナヲ弥
写真:緒方 亜衣
デザイン・イラスト:かわいち ともこ
校正:廣田 いとよ
協力
横須賀市自然・人文博物館(瀬川 渉)
観音崎自然博物館(山田 和彦)
横須賀市立中央図書館
横須賀市立中央図書館郷土資料室
赤星直忠考古学研究資料デジタルアーカイブ
筑間一男
判型:A5判(210×148mm)
頁数:70p
製版・印刷:本文 プロセス4C、表紙 プロセス4C+マットPP
用紙:北越アートポスト、A2マットコート(一般)
製本:あじろ綴じ 並製本
どうも、東京印書館の大関です!
今回はサンズイ舎のモリナヲ弥氏発行の「漁民の芸術Ⅰ」の紹介です。
江戸期以来、東京湾と相模湾というふたつの大きな湾に挟まれた神奈川県の三浦半島沿岸漁村では各種の漁業が発達してきました。
その長い歴史の中で用いられてきた「漁撈(ぎょろう)用具」なるもの。これらは、1974年に国指定重要有形民俗文化財にも選定されました。
「漁撈(ぎょろう)」とは、魚介類をはじめとした水産物を収穫する活動のことをいい、その漁撈にまつわる用具が収蔵されているのが神奈川県南西に位置する「横須賀市自然・人文博物館」になります。
こちらの博物館では、釣漁の用具を中心に、網漁・突き漁・藻取り、貝取りなど漁法に関する用具を収集しているほか、製造加工用具や交易運搬用具、漁具修理製作用具も含まれて収蔵されていて、その数なんと2,600点!そのほとんどは収蔵庫に保管されていますが、毎年春と秋に一般公開されます。
表紙はシンプルでありながらとても力強いデザイン。写真は「マイワイ」というものになります(マイワイについては後述)。
表紙には色見本がありましたので、それにできる限り忠実に。表面にはマットPP(ツヤなし)という加工が施されるので、それを見越しての色調整を行いました。
本文は大きく分けて3部構成。
第1部は漁撈用具の写真を中心に紹介。用具の使用方法や文化的な背景を解説する第2部、第3部では長く横須賀で鮮魚店を営んできた人物からの聞き書きの他に、神奈川県立博物館が行った約50年前の民俗調査資料を元に、専門家が当時の三浦半島の生態を探るという内容です。現代の自然科学の視点から、漁撈用具が使われていた環境を立体的に掴むことができないかを模索した、とあります。
漁撈用具紹介ページは用具の背景がグレーのものがほとんどでした。実はこのグレーという色は、バランスが少しぶれるだけで人の目には青く見えたり赤く見えたりしがちな色なのです。
よって、全体の統一感が出るようにグレーバランスを慎重に合わせて調整。最終的に写真の暗い部分の濃度を少し強くとのご要望がありましたので、本番の印刷時に暗部側をぐっとしめました。
用具の紹介では「とる」「仕掛ける」「祈る」と分類してあり、その言葉に関連した様々な形や用途のものが紹介されています。
「とる」では、釣鉤(つりばり)やビシ(釣りでいうところのコマセバコ)やカイマキ(砂地でアサリを獲るもの)など。
「仕掛ける」では、タコツボや網などを紹介。
「祈る」では、木札や御守やマイワイが紹介されています。
マイワイですが、写真のとおり背や裾などが鮮やかに彩られた晴れ着のことです。鶴や亀、恵比寿や蓬莱などの縁起物が描かれており、漢字表記では「万祝」となります。
大漁の際に船主らが祝いの席で着ていた衣装で、ちょっと特別な日にさっと着て喜びを分かち合う役目も果たしていたとか。現在ではそのモチーフは大漁旗に受け継がれています。
漁撈という行為だけではなく、それを補助する用具も収蔵庫には納められており、例えば「チゲ」という用具(長方形の蓋つきの木箱)は、別名「マクラ箱」と呼ばれ、漁の休憩時に実際に枕として使用されていたりしました。
箱の中身は、スペアの釣鉤やテグスといった消耗品、タバコやマッチの嗜好品、御守などが収められており、御守は漁の安全祈願はもとより身分証の機能を有するものでもあったようです。
このようにして広い範囲で集められた用具ひとつひとつが持つ味わい深い造形に惹かれ「横須賀市自然・人文博物館」に何度か足を運ぶうちに興味を抱き、そして完成したのがこの「ZINE(ジン)」なのです。
ナヲ弥氏いわく、基礎知識がなければ一目見ただけではどのように使うのかもわからない自然由来の素材で作られた用具の群れに身を置いていると、まるで深い森の中をひとり歩いているような奇妙な感覚に陥るとも。
この「ZINE(ジン)」を手に取ってくれた方々が、三浦半島の海が紡いできた人と海の文化史に関心を持つきっかけになってくれれば嬉しいと語っており、漁撈用具の写真については、用具が持つ質感や造形を視覚的に楽しめるような作りを目指したとのことです。
ちなみに「ZINE(ジン)」とは何ぞやというと、好きなものを自由な手法でひとつの冊子にまとめるという新しい表現方法になります。
インターネットの普及により、雑誌などのメディアのオンライン化は加速していますが「ZINE(ジン)」は自主制作で自由度が高いため、制作者自身の思いや情熱を反映させやすく、オリジナリティの高いコンテンツになります。
実はこの本の制作のきっかけは弊社のHPへの依頼からでした。
写真集ばかりを作っている会社と思われがちなのですが、このような「ZINE(ジン)」も手掛けます。
ものづくりに関わる端くれとして、このような貴重な漁撈道具の紹介本を作成するお手伝いができたことに感謝しつつ、多くの人の目に触れることを願い、微力ながらも応援させていただきます。
(文・営業部 大関)
漁民の芸術Ⅰ 文化財・三浦半島の漁撈用具より | 汀線
状態 : 新刊 発行年 : 2023出版社 : サンズイ舎製本 : ソフトカバーサイズ : A5判[コメント]漁民が日常で使用していた様々な民具を通して、三浦半島とその漁民文化を紹介した1冊。タコツボやウナギガマ、カイマキなどの民具の造形、マイワイと呼ばれる晴れ着のデザインなどが美しく見応えがある。横須賀上町の鮮魚店主が語る当時の様子や博物館学芸員による三浦半島の海の生態についてのインタビューも非常に興味深い。
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サンズイ舎は「水辺の文化を綴る」をテーマに、神奈川・三浦半島の片隅でリトルプレスを制作しています。関心がある分野は博物学/本草学/動物民俗学、そして自然写真。実際に訪れる海や川などの水辺はもちろん、昔の人が書物や図譜に描き残した自然の事象も、大切なフィールドワークの場であると考えています。