不条理を乗り越える 希望の哲学
著者:小川仁志
発行:平凡社
発行日:2022/4/15
判型:B6縦変型判(172×105mm)
頁数:224p
製版・印刷:スミ、特色1C(鉛色)、プロセス4C、特色2C(特青+特スミ)、カバーはマットPP加工
用紙:雷鳥コートN、Nプレミアムステージ ホワイト、淡クリーム琥珀N
製本:あじろ綴じ並製本
今回は、哲学者・小川仁志さん著の「不条理を乗り越える 希望の哲学」をご紹介いたします。
私たちの世界はいま、コロナ禍という不条理に見舞われています。一見、豊かで幸せそうにみえた日本でも、パンデミックによって、格差や不平等、差別など、さまざまな問題があぶり出されました。この、変えることのできない不条理な世の中にあって、自己肯定感を喪失せずに、希望を持って生きることはできるのか、という問いに答えうる哲学が喫緊に求められています。
考え、行動し、真理を追究する〝闘う哲学者〟が、この世のあらゆる不条理を乗り越えるための哲学を示します。
本書では、前述の通り、格差や不平等、差別などさまざまな問題が俎上に上げられ、各々について哲学的思考から克服する、乗り越える提案がされています。一見乗り越えるのが困難な問題でも、思考実験を試みることで、意外なところに突破口が見つかると、小川さんは示してくれます。
特に日本に生きる我々が陥りがちな「自己肯定感」の欠如について、小川さんは次のように述べます。
「その背景には、社会が高い基準を設定しがちなのに加え、それに合わせなければならない、という日本独自の悪しき集団心理が横たわっているといっていいだろう。」その典型例としてルッキズムを上げ、もちろんそのような外見至上主義の偏見に満ちた考え方に支配されるべきではないと説きます。
「結局、人が自己肯定感を持って生きていくためには、トランス・ヒューマニズムのように身体ばかりを変えようとしてもだめで、心を変えていく必要があるのだ。」
多くの人が抱える「人間関係」の悩みについても、ショーペンハウアー的に「他者とは石のように変えられないものと考え、あきらめという後ろ向きな態度」で受容するか、ディルタイ的に「他者は変わらないのだから、自分が勝手にすり合わせを行う前向きな態度」で受容するか、後ろ向きにせよ、前向きにせよ、自分が状況に応じコロコロと変わることで、人間関係を丸くしていくことが可能ではないかと提言しています。
いわゆる「Z世代」の若者たちを社会が守り、育てていかねばならないこと、「親ガチャ」を例に「生まれてこなければ良かった」という反出生主義をどう乗り越えるか、「死」と「絶望」をどのように捉え向き合うか…
小川さんも述べられているように、「哲学が求められる時期は常に危機の時代」です。未曽有のパンデミック後の世界で、小川さんの指し示す哲学が、皆様の生きるよすがになるのではないでしょうか。ぜひご一読ください。