不易と流行のあいだ ファッションが示す時代精神の読み方

著者:菅付雅信

装幀:グルーヴィジョンズ

発行:平凡社

発行日:2022/3/35

判型:四六判(188×128mm)
頁数:248頁
用紙:b7トラネクスト、チップボールA、マーメイド ライトグレー、ニューメタルカラー シルバー
製版・印刷:スミ、スーパーブラック(表紙、帯)、高濃度スミ(カバー)
製本:あじろ綴じ並製本

今回は菅付雅信さん著の「不易と流行のあいだ」をご紹介いたします。

ライトグレーのボール紙の表紙に、メタリックシルバーの用紙のカバーと、ライトグレーの帯をかけたスタイリッシュな装幀が目を引きます。スミ文字はスーパーブラックと高濃度スミを使用して、一般的なスミよりも深く濃く印刷しています。

タイトル「不易と流行のあいだ」は松尾芭蕉の俳句の理念、「不易=永遠に変わらない普遍の美」と「流行=変わり続けること」のどちらも追求することから来ており、ファッションが永遠に創造的であるために、他に先んじて変わらなければいけないという考えにも通じるそうです。

著者の菅付さんはご自身を、いわゆる「ファッション・ピープル」ではないが、編集者としてファッションとは常に接点を持って関わり、パリコレや東京コレクションなどの主要なショーを拝見し、内外のファッション雑誌を溺愛し、数千冊のファッション雑誌をコレクションする、ファッションをずっと観察し続けているアウトサイダーだと言われます。

そんなファッション・アウトサイダーの菅付さんならではの視点から、ファッションの広大さと奥深さについて書かれた、ファッション業界週刊紙『WWD JAPAN』の人気連載の書籍化です。

「コロナの時代のファッション」「デジタル時代のショーの価値」、「ノンバイナリーなカナリアたち」「サステナブル・ファッションの間違い」「ファッション写真は超越的ポルノグラフィーである」などなど、コラムのタイトルからもわかるように、その考察は社会問題、政治、文化、ジェンダー、テクノロジーなど多岐にわたります。

本当にどの考察も面白く首肯しながら読ませていただいたのですが、「サステナブル・ファッションの間違い」の章は多くの方が関心のあるテーマでしょう。

昨今多くのファッション企業が競うようにサステナブルな取り組みをするようになり、H&Mやユニクロでも古着を回収して新たな製品にしたり、リユースして難民キャンプに届けたりする活動をしているのをご存じの方も多いのではないでしょうか。

ステラ・マッカートニーや「パタゴニア」のように、ブランド自体が動物愛護や持続可能性を標榜しているところも多く、ブランドが21世紀の責任ある存在として、生き残りをかけて取り組むミッションになってきている、と菅付さんは言います。

しかし経済思想家の斉藤幸平氏は次のように語ります。「ファッション業界でのサステナブルな取り組みの多くは、ただ新しいクリーンなイメージを作るための”大衆のアヘン(麻薬)”に過ぎない」。

今のファッション業界のサステナビリティに対する取り組みの多くは表層的に過ぎず、生産過程の透明化を進めない限り、その企業も気づかない下請け段階で、劣悪な条件で働いている人がいたり、原料は地球を破壊するような環境で作られたかもしれない、と警鐘を鳴らします。

確かに我々消費者にはそういった部分は不透明ですし、ドメスティック・ブランドで「MADE IN JAPAN」と書かれている製品を買うとなんとなく安心してしまっていた私などは、とても耳の痛い内容でした。国内でも外国人技能実習生を低賃金で働かせていることは問題になっています。

ファッションと聞くと、表層的で軽佻浮薄なイメージで捉えられがちですが、菅付さんは様々な切り口で「不易」と「流行」の間を往来するファッションとその周縁の事象を論じておられます。もちろん総合芸術家であるファッションデザイナーの仕事についても語られています。

「皇帝」カール・ラガーフェルドやマルジェラ、アレッサンドロ・ミケーレ、写真家のヘルムート・ニュートンなどについて語られている箇所もお薦めです。「アントワープの6人」やガリアーノに胸熱くした(…というと年がバレますね)私は、ファッションデザイナー山縣良和さんとの対談も大変興味深く読ませていただきました。

文明社会において洋服を着ずに生きていくことは不可能です。なぜ服を着るのか、どうしてその服を選ぶのか、などと考えながら、自分とファッションの付き合い方もつかめる良書です。ぜひご一読ください。