土門拳の風貌
著者:土門拳
発行:クレヴィス
発行日:2022/3/30
判型:B5縦変型判(250×190mm)
頁数:208p
製版・印刷:UVスミ+特グレー、スミ+特色3C(特茶+特青+特グレー)、特1C(特茶)+スミ、帯、カバーはグロスPP加工
用紙:ミューマット、OKトップコート+、MTA+-FS
製本:糸かがり上製本
今回は、写真集「土門拳の風貌」をご紹介いたします。
日本の写真史に一時代を画した土門拳(1909~90)。戦前から人物写真の名手として知られた土門は、日本の近現代の文化や芸術の流れに大きな足跡を残した各界の著名人を撮影。
クローズアップで迫った写真は、その人の呼吸が聞こえてきそうな臨場感があります。一枚の写真がその人物の人生を浮き彫りにする。そんな迫力に満ちた土門の人物写真代表作132点をまとめた一冊。明治・大正・昭和の文化人を一望にする時代のドキュメントです。(クレヴィスHPより)
「写真の鬼」と評された土門拳は、報道写真から基礎を学び、1950年代には「リアリズム写真」を提唱するようになります。土門が語る「リアリズム写真」とは、「絶対非演出を前提にした絶対スナップ」であり、「少しでも演出的な作為的なものが加わり」「写真で絵画を模倣したり、モデルに演出してお芝居をやらせたりする」ような、いわゆる「サロン・ピクチュア」は「道楽」であると切り捨てています。
この「土門拳の風貌」に収められたポートレイトを眺めていると、そのように語った土門の言葉の意味も強く感じとっていただけるのではないでしょうか。多くは自宅で撮影された文豪や科学者、俳優など多くの著名人の迫力ある「風貌」からは、その眼差しや顔に刻まれた皺、暮らしが垣間見える背景など、このポートレイト1枚でその人物の人となりを体現した「リアリズム写真」たりうるものです。
迫力あるモノクロの写真を、スミとグレーで諧調とコントラストを出しつつ暗部のスミはしっかり締めて、製版、印刷しています。
この写真集には、撮影時のエピソードを綴った土門拳自身のエッセイも収録されており、写真を補完する内容となっています。その文章は軽妙で、時に切なかったり、時に微笑ましかったり、このエッセイでもその人物の人となりがうかがい知れます。
例えば、井伏鱒二との次のようなやりとりはクスリとさせられます。
「僕は太っているから、写真は勘弁してもらいたいな。太っていると、小説が下手そうに見えるからね。痩せている小説家は、うまそうに見えるよ」「しかし、谷崎先生は、でっぷりしていますね」「谷崎さんも太っているから、写真で見ると、やっぱり小説が下手そうに見えるよ。痩せていたらもっとうまそうに見えるだろう。小林秀雄君なんか、小説家じゃあないが、うまそうに見えるよ」(本文78ページより)
一方、斎藤茂吉についての次の文章では、憧れの人に対面したものの、老い病まれた姿を目にした土門拳の心情に、私も胸がきゅっと締め付けられました。
それにしても、僕は長い間会いたい会いたいと思っていた人の病み衰えた姿を見て、何か胸が一杯で、撮影も思うに任せなかった。撮影は奥さんとの約束通り5分で打ち切ったが、茂吉先生は何か話したげで、仲々腰を上げられなかった。奥さんに促されて、ようやく寝床へ戻られたが、それでも応接間を出て行かれる時、駄々子のように柱につかまると、「土門さん、他にもう用事はございませんか」と僕の顔を見られるのだった。(本文38ページより)
昭和の”巨人”126人の姿に迫った、「リアリズム写真家」土門拳の真骨頂とも言えるポートレートと名エッセイを堪能できる本書。土門拳曰く「肖像写真とは、カメラを通して描く写される人自身の、いわば自画像である」ぜひご覧ください。
協力:公益財団法人土門拳記念館、池田真魚
ブックデザイン:土居裕彰(クレヴィス)
編集:小西治美
制作:別府笑(クレヴィス)