中国人の歴史意識

著:川勝義雄

DTP:平凡社制作
装幀:中垣信夫

発行:平凡社
発行日:2022/9/28(第2版)、1993/6/30(初版)

判型:A6縦変型判(160×110mm)
頁数:368p
製版・印刷:プロセス4C、特色1C(特グレー)、スミ、カバーはマットPP加工
用紙:HL用紙(オペラクリームHO)、ヴァル、雷鳥コートN
製本:あじろ綴じ並製本

今回は、中国中世史家・川勝義雄氏著『中国人の歴史意識』をご紹介いたします。哲学ではなく史学こそ中国における「諸学の学」である――司馬遷の歴史観ないし中国人一般の歴史意識、道教と仏教、中世史に関する諸論考を集めた遺稿集。「中国人における現世とその超脱——仏教受容の風土」が増補された新装版。

Ⅰ章では司馬遷の『史記』を中心に、ギリシアのヘロドトスの『ヒストリア』と比較しヨーロッパにおける世界史と中国におけるそれとの相違や、「近代歴史学の父」と呼ばれるランケが絶対者である神の摂理を信じる宗教的動機の下で歴史を紐解いたのに対し、中国の歴史家たちは二千数百年前より超越的な神の摂理を信じず、ペシミズムと闘いながらも、埋没せんとする人間の正義を発掘して史書に残し、人間世界への信頼を求めて独自の世界史を成立させたと述べています。

Ⅱ章には、道教と仏教に関する小論を収録。フランスの中国学者マスペロの道教についての論文を考察、批判しています。日本人にはあまり馴染みのない道教についても、非常にわかりやすく語られています。道教は救済の宗教であるが、仏教やキリスト教が永遠の生を霊魂になること考えるのとは異なり、物質的な肉体が適当な方法によって死を免れ、不死の身体となって生き残ることを「不死の生」と考えていました。

しかし道教では神々との距離が近くなりすぎて神秘的な存在ではなくなり、知的努力と哲学的論議をないがしろにしたため、道教はやがて衰微していったようです。

Ⅲ章には、『六朝貴族制社会の研究』で有名な川勝氏が、より一般人にもわかりやすく述べた「六朝貴族社会と中国中世史」を収録。「重田氏の六朝封建制論批判について」では、当時熱かった論争の一端を垣間見ることができます。

日本人の歴史観にも大きな影響をあたえた中世の中国について学ぶことができる、非常に興味深い内容となっています。ぜひご一読ください。