西村多美子写真集 あれから
著:西村多美子
発行:禅フォトギャラリー
発行日:2022/10
判型:A4横変型判(219×250mm)
頁数:156p
製版・印刷:スーパーブラック+特グレー、スーパーブラック+特グレー+シルバー、超被膜ニス
用紙:b7トラネクスト、OKACカード しろ、サガンGA ロイヤルブルー
製本:コデックス装並製本
今回ご紹介するのは、写真家・西村多美子氏の写真集『あれから』です。
禅フォトギャラリーから刊行された『旅人』『続』に続く『旅人』三部作の最終篇。2018年に三部作の最初の一作目となった写真集『旅人』を刊行して以来、禅フォトギャラリーは西村氏の写真に対する姿勢を反映させながら、彼女の60年代の初期から近年に及ぶ未公開作品を包括的に紹介してきました。
本作『あれから』は、国内外を旅した際に撮り続けてきたスナップショットを中心に、西村氏が90年代から直近の2022年に撮り下ろした新作を含めた写真集。作者が敬愛するチェコスロバキア出身の写真家・ジョセフ・クーデルカへのオマージュ作品でもあります。
写真学校の学生だった1968年頃から、興味のある事や人や物を自分の好きなように写真に撮ってきた。それは心地良い体験だった。 1968年に唐十郎率いる劇団状況劇場の舞台写真を撮った。最初の撮影の時に、結界を易々と越えてしまう役者たちに、漫然とシャッターを切っても何も写らないことを知らされた。
私は凝視して、凝視して、レンズを突き抜けて、役者にぶつかって行くほどの勢いで撮るしかなかった。二年間、可能な限りすべての公演を撮影した。この時の写真は『実存』というタイトルで2011年に出版された。
好きな写真家はジョセフ・クーデルカだ。初めてジプシーの写真を見た時、まず真摯なものの見方に感動した、というより衝撃を受けた。自分が被写体と向き合った時の理想の姿を見た気がしたのだ。
2011年、チェコへ行った。クーデルカは1968年8月プラハで、ソビエト連邦主導によるワルシャワ条約機構軍の軍事介入を撮影している。『プラハ侵攻 1968』で有名な写真、手前に腕時計、突き当りに国立博物館が見えるヴァーツラフ広場で、写真を撮ってみたいと思った。結局、私の撮った写真は腕時計の代わりに、女の背中になってしまったのだが。(中略)
劇団状況劇場から始まり、秀でた個性ある人々と出会い、そして旅に出て写真を撮ってきた。今はまだ、自分が旅の途上に佇んでいる気がする。」
— 西村多美子『あれから(My Journey III. 1993-2022)』あとがきより抜粋
モノクロのハイコントラストで撮影された、人物、風景、動物を眺めていくと、西村氏が「凝視して、凝視して、レンズを突き抜けて、ぶつかって行くほどの勢いで」対象に向き合っているのが感じられます。濃い影から浮かび上がる顔に刻まれた皺や表情まで読み取れ、私たちは遠い異国の見知らぬ人のその人となりに思いを馳せることができるのではないでしょうか。
西村氏は半世紀以上に及ぶ作家活動の間、一貫してフィルムで撮影し、自ら暗室に篭って現像するスタイルを貫いています。撮影対象に真摯に向き合う彼女一流の流儀は、敬愛するクーデルカの「写真を撮り続け、惰性に陥らないこと。さらに遠くに行くこと。できるだけ遠くに」という言葉を実践されているように思えます。
今なお続く西村氏の旅。その途上で生まれたどこかノスタルジックで心に残る珠玉の写真集です。ぜひご覧ください。またこの写真展「あれから」が、11月26日(土)まで禅フォトギャラリーにて開催中です。合わせてお運びください。
担当プリンティングディレクターより
高橋 満弘
ハイコントラストの写真の雰囲気を再現すべく、インキを盛り込み、影部の調子はあえて濃く潰しましたが、顔の表情などの細部のディテールはわかるようにライト~中間域まではグレーで調子をとって階調を出しました。
編集・アートディレクション:羅苓寧
文字校正:野村ニナ
翻訳:マ ボンワイ ボニー
あれから – 西村多美子 | shashasha 写々者 – 日本とアジアの写真を世界へ
禅フォトギャラリーから刊行された『旅人』『続』に続く『旅人』三部作の最終篇。2018年に三部作の最初の一作目となった写真集『旅人』を刊行して以来、禅フォトギャラリーは西村の写真に対する姿勢を反映させながら、彼女の60年代の初期から近年に及ぶ未公開作品を包括的に紹介してきた。本作『あれから』は、国内外を旅した際に撮り続けてきたスナップショットを中心に、西村が90年代から直近の2022年に撮り下…
西村多美子「あれから」 | ZEN FOTO GALLERY – アジア諸国の写真を専門に紹介するギャラリー・出版社
この度、禅フォトギャラリーは西村多美子写真展「あれから」を開催いたします。本展は2018年の「旅人」、2020年の「続旅人」に連なる三部作の最終章となります。西村が90年代から直近の2022年に撮り下ろした新作を含め、国内外を旅した際に撮り続けてきたスナップショットを中心に、70年代初期のシリーズ「しきしま」「憧景」よりセレクトした代表作を加えた展示構成となります。 …