ヴァーミリオンの女  画家 森田元子の生涯

著者:井上由理

装幀・DTP:柴田卓

発行:平凡社
発行日:2022/3/23

判型:B6縦変型判(188×128mm)
頁数:356p
製版・印刷:スミ(本文、表紙、扉)、特色1C+スミ(特茶、帯)、プロセス4C(カバー、口絵)、グロスPP加工(カバー)
用紙:嵩高書籍65クリームA、ニューVマット、OKミューズキララ ホワイト、サガンGA ホワイト、雷鳥コートN
製本:あじろ綴じ上製本

今回は井上由理さん著の「ヴァーミリオンの女」をご紹介いたします。

森田元子は1903年(明治36年)生まれ、1969年(昭和44年)没、岡田三郎助に師事して室内女性像を数多く描き、昭和2年に官展初入選後、官展系画家として活躍。女子美在学中に「主婦の友」の表紙懸賞に入賞して渡仏、川端康成、大岡昇平らの現代もの新聞小説の挿絵も多数担当。また女子美大教授として後進の女性画家を育てました。

画家・森田元子について、洋画家を夢見たパリでの日々、詩人西條八十との恋、オリンピックと日本陸上に貢献した森田俊彦との結婚と死別、3人の子どもたちを懸命に養うひとり親の暮らし、後進の女性画家の教育に奮闘する教育者としての一面など、その生涯を丁寧に追った評伝です。

著者の井上さんによれば、森田元子の描き続けた人物像は自画像ではありますが、自分を”主体”として描くのではなく、自分を通過して表現したい人間”女性”を描いたもので、自画像であって自画像ではないそうです。森田元子の作品は、自分を超えて人間の普遍の迫ろうとしており、森田の制作の深化と共に変化を続けたとのこと。

本書は、ドラマチックな生涯を送った森田元子の内面や私生活に立ち入ることは最小限にされており、昭和画壇で「女性画家の大御所」と評された森田の絶作「女(ヴァーミリオンの女)」制作に至るまでを、時代や関係者からの資料を紐解き紡がれたものです。

現在も、森田の作品は東京国立近代美術館、神奈川県立近代美術館など多くの美術館に所蔵されていますが、ご存じない方も多いのではないでしょうか。

著者の井上さんは、死の床でも「新しい絵を描きたいと語った彼女の留まることを知らずに突き進む描く勇気を、若い学生や画家を志す人びとに伝えられたら」と願っています。個人的にはグレイヘアについて森田が語ったエピソードが、彼女の心のおおらかさを感じ取れて大変好ましかったです。画業を志す人に限らず、懸命に毎日を生きていこうとする皆様の心にも刺さるのではないでしょうか。ぜひご一読ください。