生涯を通じて万葉集ゆかりの地を訪ね、万葉文化の普及に貢献した万葉研究の第一人者「犬養孝」(1907-1998)。万葉歌に節をつけて朗々と歌い上げる「犬養節」は人気を博し、メディアに取り上げられ昭和の一大万葉ブームを引き起こしました。
昭和26年、万葉集に歌われた土地を訪ねる「大阪大学万葉旅行の会」をスタートさせ、以降、全国1200箇所もの万葉集ゆかりの地に赴き調査するという偉業を果たしています。
時はまさに高度成長期のピーク、犬養は開発の波から万葉故地を守るための署名・抗議活動にも身を尽くし、奈良県明日香村の甘樫丘に建てられた万葉歌碑「明日香風」をはじめ、全国に142基もの歌碑が建立されました。
昭和39年に刊行された「万葉の旅」全3巻(社会思想社・現代教養文庫)は平成15年に「改定新版 万葉の旅」全3巻(平凡社ライブラリー)として復刻し万葉ファンのバイブルとして読み継がれています。
本書は、平成13年に平凡社より刊行された「別冊太陽 万葉の旅」をベースに、この「改定新版 万葉の旅」からの引用、犬養孝没後二年目に自宅から発見された「取材ノート」、そして現在の万葉故地50景の美しい写真で構成されています(口語訳・解説付き)。
新元号「令和」の出典ということで再び注目を集めている万葉集。犬養孝が歩いた風景に想いをはせながら、その魅力、奥深さを再発見できる一冊です。
印刷会社メモ〜Printing Director’s note
万葉故地50景の美しさを最大限に引き立てるべく、テキストを読みながら光と色調のバランスを調整させて頂きました。 特に、暗めの写真を明るくする際は、デティールを出すことにより説明的要素が強くなりすぎないように注意しています。
また、紅葉や海のブルーは鮮やかすぎず、くどくなりすぎないように気をつけています。 過度に説明的要素や鮮やかさを加えることなく、写真一点一点が醸し出す「万葉の心」が印刷物として自然に、美しく映えるような製版を目指しました。ぜひ、写真からも「万葉の心」を感じとって頂ければ幸いです。
東京印書館プリンティング・ディレクター 片山雅之