秋津マキ子写真集「花に染む」

写真/著:秋津マキ子
発行日:2023/3/1

判型:A4横判(210×297mm)
頁数:80p
製版・印刷:プロセス4C、プロセス4c+特銀、特ピンク、カバーはグロスPP加工にタイトルと著者名は箔押し(白箔)、表紙はグロスPP加工
用紙:OKトップコート+、サテン金藤N、タント P-50
製本:糸かがり上製本

唐突ですが、みなさんの好きな花は何でしょう?
花を見たときには、どんなことを感じますか?

どうも、営業部の大関です。
今回はフォト・アーティスト秋津マキ子氏の「花に染む」のご紹介です。

花の輝きに魅せられた氏の「花の半島」で撮影された花の写真集。
「花の半島」とは伊豆半島のことであり、天城連山と黒潮に囲まれたこの地は温暖な気候のおかげで四季を通じて色とりどりの花が咲き乱れるとのことです。
例えば、カルミア、つわぶき、マグノリアなど深紅、黄金、純白の色鮮やかな花が咲きほこり、風が吹いては光が変わり、花の色が変わり、花の香りが辺りを満たすとのことで、まさにそこは花の楽園である、と。
そこで、色彩と光のページェント(野外劇)に魅せられ、田畑、野原、雑木林で野辺の花を写し始めた秋津氏。

撮り始めの頃は、芸術性の高い作品を撮りたいとの意識が強かったとのことで、花が鮮やかに浮かび上がるように理詰めで迫っていたと氏は語ります。
しかしながら、理詰めで考え均整のとれた作品ほど、見方によっては人工的な印象を与えると思うようになり、そこから張り詰めた作品よりもっと柔らかな作品を撮るにはどうしたらよいかと模索するようになり「なぜ人は花を美しいと感じるのか」という根本的な問いに至ることに。

そして調べた結果、氏は人が花を美しいと思うようになったのはここ数千年のことであり、社会が豊かになるにつれ、人は儚い花の命に自分の命を重ね合わせるようになったことを知ることになります。
滅びゆくものに、哀惜や宿命を感じ、滅びの感覚と美意識はコインの表裏のようなものではないのかと。

ネムの花は一日花といわれています(55ページに掲載)。それは、花が咲いてからしぼむまでが一日という理由からなのですが、ネムがとりたてて儚いわけではないのです。朝顔もユリも桜も数日で散ってしまいます。花の盛りもかりそめなのです。
そのような移ろいの中に新しい美を見出すことで、作風が大きく変わり、今では野辺の光や風や湿気なども表現しているとのこと。

心境の変化に伴って撮影法も変わり、最近では花に浸り、花の世界に入るような感覚で、撮影していることすら忘れ時間が止まったかの如く、花と一体になり無心にシャッターを切るという秋津氏。

花に同化し、花に染まっていくのです。

そのような氏独特の感覚で撮影された花たちの姿は、強烈な個性を主張していながら自然でもあり、そこに確かに生きているという生命の美しさと力強さを感じます。

みなさんもこの写真集を手にとって、存在感たっぷりの花たちの表情をじっと見つめてみてください。

きっと、花が自分だけにそっと何かを語りかける声が聞こえてくるはずです。

ぜひ、花に染まってみてはいかがでしょうか。

(文・営業部 大関)

担当プリンティングディレクターより

髙栁 昇

花が被写体である場合には、花がどうやったら浮き出してみえるかを考えます。
例えば、彩度をあげて暗部をしめてコントラストを強調することで花がよりきれいに見える、というような感じです。
今回はそういった硬い印象ではなくて、非常に柔らかな印象の写真集です。ですから、写真家さんの表現をどう読み取るか、写真の構図から何を感じ、どういう意味があるのか、といったことを考えるように努めました。
花の表現として花の美しさは感じさせる必要もあるので、特にハイライト部分にこだわり処理をしています。
被写体と撮影者の関係というよりは、生命として同じであるという感覚とでもいうべきでしょうか。
この関係性と距離感をどう表すかを意識して製版し、印刷した写真集となっています。

発行人:片村昇一
発行所:株式会社日本写真企画
アートディレクション:三村 漢(niwanoniwa)
プロデューサー:矢部正秋