30周年版 ジェンダーと歴史学
著:ジョーン・W・スコット
訳:荻野美穂
発行:平凡社
発行日:2022/5/10
DTP:大連拓思科技有限公司+平凡社制作
装幀:中垣信夫
判型:B6縦変型判(160×110mm)
頁数:528p
製版・印刷:スミ、プロセス4C、特色1C(特グレー)、カバーはマットPP加工
用紙:HL用紙、雷鳥コートN、ヴァル
製本:あじろ綴じ並製本
今回ご紹介するのは、ジョーン・W・スコット著『30周年版 ジェンダーと歴史学』です。
「ジェンダー」を歴史学の批判的分析概念として初めて提起し、周辺化されていたの女性の歴史に光をあて、歴史記述に革命的転回を起こした記念碑的名著。30周年改訂新版。ジェンダーとは性について語る知であるというフェミニズムの構築主義の論理の実践を歴史分析、歴史学分析分野で試みた歴史書であり、フェミニズムの理論書です。
著者のスコットは、もとはフランス労働史を専門とするアメリカのフェミニスト歴史研究者。女性にあてがわれた差異を女性史として実証的に認識することによって、女性史家の意図とは逆に、女性の不平等の根拠になってしまうという論理を展開しました。そして女性史を実態的女性の歴史と見るのではなく、女性が排除、構築された過程と書き直し、歴史的に排除された結果としての女性を根拠にするのではなく、排除そのものを批判する脱構築的作業が必要と説きました。
スコットは、ジェンダーを「身体的性差に意味を付与する知」と簡潔に定義しています。それ自体では、いかなる意味も生みださない女/男の身体的差異に、知がさまざまな意味を付与することによって、女/男の本質的な差異として認識され、しかも権力関係をともなって語られていきます。知とは、彼女にとって「世界を秩序立てる方法であり、社会の組織化と不可分なもの」でした。
権力が構築される過程で、性的差異がどのように利用されてきたかを明らかにし、歴史記述のみならず、歴史学そのもののあり方に決定的な変容をもたらした本書。30周年版への序文では、トランプとヒラリーの大統領選についても、彼女一流の皮肉の効いた文章で綴っており大変面白いです。「ジェンダーとは何か」について理解を深めるために読んでおきたい1冊です。ぜひご一読ください。