旅する漱石と近代交通 鉄道・船・人力車

著:小島英俊

発行:平凡社
発行日:2022/11/15

DTP:平凡社地図出版
装幀:菊地信義

判型:B6縦変型判(172×105mm)
頁数:264p
製版・印刷:特色2C(特青+特墨)、特色1C(鉛色)、スミ、カバーはマットPP加工
用紙:淡クリーム琥珀N、Nプレミアムステージ ホワイト、雷鳥コートN
製本:あじろ綴じ並製本

今回は、小島英俊氏著『旅する漱石と近代交通 鉄道・船・人力車』をご紹介いたします。

日本を代表する作家・夏目漱石が生きた時代は、鉄道の開通や蒸気船の就航、自転車の普及など、日本の近代交通が目まぐるしく発展していった時期でもありました。旅や日々の暮らしを通し、漱石はさまざまな交通手段を利用しています。開通したての鉄道で行った学生旅行、ロンドン留学へ向かった船、下宿生活で練習に励んだ自転車、小説にもたびたび描いた人力車……。

名が知れていくのと並行して移り変わる交通事情を、漱石はどのように見ていたのでしょうか。日記や小説の描写を通し、「交通」という新たな軸から文豪の生涯をたどります。

今年は鉄道が開通して150年の節目。日本を代表する文豪である夏目漱石は、1867年に生まれますが、鉄道開業時漱石は5歳。文明開化に沸く明治時代、漱石も日本が近代国家へと成長していくのとともに立身出世していき、それに応じて交通手段もグレードアップしていっている点などにも触れておりとても面白いです。

漱石というと、胃弱で神経質、いつも書斎にこもっているようなイメージがありますが、実際には活動的で旅行好きだったそう。本書に紹介されている日記などの文章からもわかりますが、常に新しい乗り物に強い関心を持ち、特に飛行機の曲芸飛行には興味津々だったようです。好奇心旺盛な漱石は、ロンドン留学中や国内旅行中に見聞した興味深い風物を、いきいきとユーモラスな語り口で残しています。

著者の小島氏は商社マンとして活躍されたのち、近代史・鉄道史の著述業に転身した経歴の方ですが、本書に紹介されている地図や一覧表も大変見やすく、また文学への造詣も深いので、交通史と文学史の両面からアプローチできる良書です。

現代では気軽に日常の生活圏を離れて旅行できるのが当たり前ですが、鉄道や船などの乗り物が珍しかった時代の人々の新鮮な驚きを、言葉の達人・漱石の文章からお感じください。