鬼海弘雄写真集 SHANTI persona in india

著:鬼海弘雄

発行:筑摩書房
発行日:2019/10/15

判型:A4縦変型判(270×220mm)
頁数:208p
製版・印刷:特色2C(特グレー+マットスミ)、特色2C(スーパーブラック+特グレー)+色ニス、特色1C(スーパーブラック)、特色1C(特黄)ダブル+マットスミ
用紙:b7ナチュラル(I)オペラホワイトゼウス、ヴァンヌーボV ホワイト、ヴァンヌーボV スノーホワイト、OKトップコート+
製本:糸かがり上製本

今回ご紹介するのは、2019年刊行、鬼海弘雄氏の写真集『SHANTI persona in india』です。

SHANTI シャンティ、平和・心の平穏を意味するサンスクリット語だ。浅草・浅草寺で45年間、ポートレイトを撮り続けた鬼海弘雄のもうひとつのライフワーク、「インド」。彼の地に通って35年。数カ月にわたって滞在するが、「名所旧跡を訪ねることもなく、ほとんど変哲もない町や村に逗留しては、同じ道を繰り返して歩くだけの旅」だったという。

そこで出会った風景と人々とその日常を撮る。東京では、背景なしで人物を捉える浅草ポートレイト(PERSONA)と、人物が入らない風景(街のポートレイト)を撮る鬼海が、インドでは、それを区別しない。人も大地も、風も子どもも海も、撮る。すべては普遍の人間を映し出すポートレイトなのだ。

この作品集に登場するのはインドの子どもたちだ。大文字になるまえの小さなpersonaたち。ただ、そこにはたしかなペルソナの存在感が、人間という宇宙がある。誰もがこれらの写真の中に、かつての自分の姿を見出すだろう。『PERSONA 最終章』と双璧をなす珠玉のポートレイト集、ぜひご覧いただきたい。

ー筑摩書房 HP紹介文より

鬼海弘雄氏は、かつて、次のように仰ったそうです。「わたしの写真のテーマはね、三本ある。まず、ひと。二番目に、まち。三つ目は、インド」1979年以降20回以上、バックパックひとつで放浪したインドで、鬼海氏が出会ったのは、自身の幸せな子供時代と重なる、屈託なく笑ったりはにかんだりする子供たちでした。

子供たちの写真を眺めていると、写真集のタイトルどおり、おのずと平穏な気持ちになり、誰しも自分自身の幸せな幼年期を思い出すことができるのではないでしょうか。そして、自分がそのような幼年期を過ごせた幸せを、また改めて噛みしめることができます。

インドの子供たちは、衛生的に恵まれた環境にいるわけではなく、多くは着ているものはボロボロで足は裸足、人も動物もゴミも一緒くたになっています。しかし、きょうだい仲良くおつかいに行き、親の手伝いを楽しそうにし、遠くから来た旅人の鬼海氏のカメラレンズを澄んだ瞳で見つめ返す子供たちの姿から、経済的には豊かになった私たちが失いつつあるものにも気づかされます。

この写真集は、「私たちが本当に受け継いでいかねばならないものは何か」という根源的な問いも投げかけてくれているように思います。物質主義に陥りがちな私たち現代人ですが、時折この写真集を眺め、心の平穏を得たいものです。珠玉の写真集、ぜひご覧ください。

担当プリンティングディレクターより

髙栁 昇

『PERSONA』とは写真集の印象を変えたい、という鬼海先生のご希望により、ダブルトーン、トリプルトーン、色ニスの種類違いなど、数パターンのテストをお出しし、最終的に、黄色とスミの量を少なくした透明度の高い色ニスを採用しました。明部は白トビせぬよう階調を出し、暗部の濃度はしっかりと濃くしています。

この写真集刊行の翌年、鬼海先生はお亡くなりになられましたが、ご闘病中の病室にまでこの写真集をお持ちいただくほど気に入っていただき、看護師さんやご友人にお見せになって喜んでいらしたと伺い、感無量の念です。

もっともっと多くの写真集をお手伝いさせていただきたかったと残念でなりませんが、今後もし鬼海先生の写真集をまた手がける機会がありましたら先生との交友関係で培ってきた色に対する考えを、存分に反映させた写真集を作りたいと思って止みません。

装幀:間村俊一
翻訳:Prter Evans、大塚幸子、Bonnie Eliot
製本:牧製本印刷株式会社